「旅する大工」が私の想像を軽々と超えてきた
日頃、大工を中心とする建築職人の急速な減少と高齢化について何とかせねばと思い、機会を見つけては色々なところでその改善の方向についてしゃべっています。その際のキーワードは「ものづくり世界の豊かさ」。収入が良いとか、比較的自由に休みがとれるとか、そういう勧誘話は建築職人の世界では容易には成り立ちません。つまるところ、建築職人のしごとの魅力と言えば、しごと自体の面白さであり、豊かさだと思うのです。そんなことをしゃべっています。
じゃ、どんな面白さ?どんな豊かさなの?そう聞かれることも多いです。頭と体の両方で覚える技能が日々上達していく成長の感覚を持ち続けられるのが趣味のスポーツや楽器演奏のようで楽しいとか、毎日やった分だけ建物がそして町ができていく達成感を豊かに味わえるとか、出来上がると住む人や使う人に感謝され豊かな人間関係ができあがるとか。日頃私はそんなふうに答えているのですが、今回訪ねた「旅する大工」いとうともひささんのしごとの豊かさには心底驚かされました。
大工だから、建築職人だから、空き家のいくつもを新しく使えるように仕上げ、新規の活動を盛り込み、空き家だらけの漁村集落に全く新しい空気を吹き込んでいるのです。よそ者だったはずのいとうさんが、今では新たな集落づくりの星のような存在になっています。何と面白く豊かなしごとでしょうか。技能を身に付けた者だからこそできるすまいとまちのフロンティア開拓。道具を積んだ車とあとは体一つでそれができてしまう。かつての西部劇のヒーローたちのようで、カッコイイです。若いのに育てた弟子がもう10数名。その面でもいとうさんは希望の星です。
(松村秀一)
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