フィンランドの高齢者住宅・施設事例から見る日本のこれから
〜日・フィンでの居住者アンケート結果を交えて〜 <その1>

東北工業大学教授 石井敏

成熟社会居住研究会では、東北工業大学教授の石井敏氏をお招きし、フィンランドと日本における高齢者住宅・施設の比較についてのお話を伺い、日本におけるこれからについて意見交換を行いました。

(1) 自己紹介

 私は建築計画の分野で、高齢者の介護施設の計画・研究に携わってまいりました。20年前にフィンランドに約2年留学したのですが、さらに2012年には大学の制度で、8か月間の滞在研究を行うことができました。日本の介護施設や高齢者住宅のことを研究する中で、フィンランドと比較しながら、日本がどの方向に進むべきかという道標を探しているところです。

(2) フィンランドについて

1) 北欧諸国の中でのフィンランドの特徴
 フィンランドは森と湖の国と言われますが、さらに森と湖とサウナの国と言ってもいいかもしれません。北欧諸国の他の国はすべて王国ですが、フィンランドだけが共和国です。人口は約550万人で、首都ヘルシンキの人口は約60万人です。国土面積は日本の本州程度で、人口密度は日本の25分の1ぐらいです。夏は白夜ですが、冬は日が出ないという、非常に厳しい気候です。
 フィンランドは他の北欧諸国と同様に、北欧型と言われる社会福祉の仕組みを持っています。北欧を語るとき、日本と社会の仕組みが全然違うために単純な比較はできないのですが、制度や社会の仕組みを越えて見てくる部分はあると考えています。
 高福祉・高負担で社会保障をまかなう仕組みの根底に流れるものは、均等な機会を全ての人に提供して、平等な社会の構築を目指すことだと思います。
 フィンランドはロシアから独立して100年で、そういう意味では若い国です。また、フィンランド人は日本を、ロシアを挟んだお隣の国と見ていますが、日本でそういう風にフィンランドを見ている人はいないと思いますけども、フィンランドにとってみれば、日本は心理的に親しみのある国で、日本を好きな方が多いし、日本のことをよくご存じです。大事なことはロシアと接している国境がとても長いということです。ロシアに支配された期間が長く、フィンランド人が自分たちのアイデンティティをずっと保ちながら、最後に独立しますが、その観点からもやはり他の北欧と置かれていた状況が全然違います。隣にロシアのあることが日常生活の中でも極めて大きな脅威で、経済的にも今ものすごく大きな要素なのですが、人口500万人ぐらいの小さな国ですから、何かあれば潰されかねない中で、1つの国としてのアイデンティティを守っていることはとても大きなことだと思います。
 北欧諸国のフィンランド・デンマーク・スウェーデン・ノルウェーは、共通するところは大きいですが、細かく見ていくとやはり違いがあります。さっき申し上げたようにフィンランドだけは王国ではありませんし、ノルウェーはEUに入っていません。ユーロを使っているのはフィンランドだけですし、軍事的にもスウェーデンとフィンランドは中立を保っていますが、特にフィンランドは隣国のロシアのことなど、他の北欧諸国とは立場が微妙に異なるところがあります。