「これからの高齢者住宅」−サ高住・住宅型有料・特定施設・GH
「小規模・地域密着・多機能」−原点は『宅老所』・在宅死

(7) 「風の丘」

 最後に私が存じ上げている高齢者向け住宅の中で、ベストスリーに入る空間をつくっておられる、「風の丘」(神奈川県伊勢原市)についてご紹介します。これは住宅型有料老人ホームと小規模多機能を併設したものです。
 前のオーナーであった津崎さまは、ご主人を亡くされ、ご自身も腰の骨を折ったことがきっかけで、自宅で住み続けることが難しくなりました。住み替え先として有料老人ホームを20軒ほど調べたとのことですが、結局は住み慣れた地域で暮らし続けたいとお考えになりました。
fig16 fig17  NPO法人「一期一会」は、もともと、津崎さまが骨折されたときに手助けされていた、有償ボランティアの団体でした。津崎さまのご自宅のあった愛甲原住宅では、高齢者が多くなり、地元居住者による「一期一会」が訪問介護などを始めておられました。理事長の川上さまは、津崎さまからご相談を受け、津崎さまのご自宅を個室6つの高齢者向け住宅と小規模多機能併設につくりかえて、その1部屋で津崎さまに生活していただくことを提案しました。まるごと1軒が自分の家だったものが、1部屋だけが自分の居室に変るという提案でしたが、津崎さまはこれなら知っている人が周りにいて、一緒に食事ができるし、自分でお風呂を沸かすなどやらなくていいということで、この提案を受け入れられました。
 各居室の面積を18m²以上にすることは、建物規模から難しかったため、住宅型有料老人ホームとして運営しています。
 建設資金は、一口100万円で、「一期一会」のサービス利用者から募られ、6千万円のお金がすぐに集まりました。隣の敷地に増築する計画を立てたときの資金も、1億2千万円がすぐに集まりました。
 「一期一会」では「風の丘」でつくった食事を住民に配食しておられます。また「一期一会」では、コミュニティカフェ、デイサービス、ケアマネージャーなど、地域に住み続けたい方々の支援を広げておられます。
 残念ながら、津崎さまは「風の丘」ができてまもなく亡くなったのですが、遺言で土地建物はすべて「一期一会」に寄贈することになりました。
 津崎さまにはお子さまがおられなかったことが、このような優れた空間ができた大きな要因だと思います。伊勢原市も建設補助の国の交付金の窓口として、「一期一会」のことをよく調べていて、地元に根付いた活動団体と認識しているそうです。
 「風の丘」の玄関にある津崎さまの記念碑には、津崎さまがよくおっしゃられていた言葉「この地で信頼できる人たちと暮らしつづけたい」が刻まれています。