講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


6.自動車の街と歩ける街
島原:  現在はタワーマンション、公開空地、公共施設、そしてショッピングモールを組み合わせた中心市街地での再開発が盛んです。これらの街づくりも、東洋経済的な指標でスポット的に測定すれば、高い評価が出ると思います。つまり、都心の再開発もかつてのニュータウン開発と同じ思想なんです。
こうした近代的な都市計画の根底にあるのは自動車とゾーニングで、森ビルが「バーティカル・ガーデン・シティ」をコンセプトに掲げていることからも明らかなように、結局はコルビュジェに遡ると思います。
鈴木:  確かに自動車用道路を中心とした街づくりが、日本に根付いてしまっています。コルビュジェのヴォアザン計画も、ヴォアザン社という自動車会社のプロモーションのために作られたものでした。
木下:  そうした街づくりは、55年体制を発端とする財政拡大志向の産物じゃないでしょうか。1960年代から70年代にかけて公共投資拡大の流れが生まれ、内需拡大を目指した80年代にも続きます。結局、バブル景気は崩壊しますが、90年代の政府は景気対策として公共工事に更なる投資をした。こうして都市計画道路が続々と完成し、県庁所在地を含めた地方都市の商業活動が、2000年代に入って一気に瓦解したという印象を持っています。
島原:  20世紀初頭の世界では、自動車は今のインターネットと同じくらい、社会・経済や都市のあり方を一変させるほどのインパクトを持っていたのでしょうね。日本においては、それが戦後の人口増加時代の国土計画・都市計画に反映された。
一方、センシュアス・シティ・ランキングで上位を占める都心近くの街は、自動車が普及するよりも前につくられたので、自動車移動でなく歩くことを前提としています。「働く」と「住む」も不可分でした。地方都市だと金沢のような江戸の時代からの城下町もそうですね。そのように古い街の道路は狭く、真っ直ぐではないし、歩行者とクルマは分離されていないので、近代的な都市計画においては良好な歩行者空間とは言えません。しかし、東京23区内で最も坂や階段の多い文京区が、「歩けること」という指標で1位になったことは着目すべき結果だと考えています。





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