講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


4.センシュアス・シティとマーケティング
鈴木:  島原さんは、都市計画からはみ出た街に魅力を感じているようです。そうした価値観は、どうやって身についたのでしょうか?
島原:  生まれ育った田舎での生活体験が基になっているのかもしれません。子供の頃は商店街で遊んだ記憶が強く残っています。実家は蒲鉾屋で、向かいが散髪屋、隣には真珠の加工工房や青果屋や漁具を売る店などがありました。ストリートが遊び場でしたし、街の中でかくれんぼをするときには、そうした商店の中に隠れたりしたものです。その一方で20秒歩けば海で魚を釣れましたし、自転車で30分行けば渓谷でキャンプが出来ました。センシュアス・シティの指標で言えば、匿名性は全く無いけれど共同体や身体性に関わる指標は高い街でした。逆に、高校を卒業して上京したのは、田舎にはまったくない都会的な可能性を求めてのことだったかもしれません。東京で暮らし始めてからしばらくは、渋谷や六本木で夜遊びをしていましたが、やがて吉祥寺や西荻あるいは大井町線沿線が楽しいと感じるようになりました。もっとも、こうした感覚を言語化できるようになったのは、住宅部門で仕事をするようになってからです。
佐藤:  センシュアス・シティの指標は、そうした生活実感に基づきながらも緻密な組み立てです。感覚的評価によく用いられるSD法は、形容詞対の質問でデータを集めますが、センシュアス・シティ調査は動詞を使うことで申告内容に客観性を持たせている。こうしたアプローチは、マーケティングの仕事で培われたのでしょうか?
島原:  マーケッターの仕事には二つの側面があります。まず、様々なタイプの消費者が乗り移れる「イタコ」のような能力が求められます。例えば、化粧品分野で最も大きなマーケットはスキンケアです。女性に基礎化粧品のインタビューをすると「プルプルする」とか「モチモチする」といった言葉を使いますが、男性には分からないじゃないですか。ですからその感覚が分かるよう、実際に化粧水や乳液を使ってみたりしました。このように直感的・感覚的に物事を捉える一方で、マーケッターにはロジカルシンキングも求められます。アンケート調査を始めとする様々なサーベイも行いますが、クライアントに企画を通すためには理路整然と組み立てられた客観的な数字の裏付けが必要なんです。



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