- 我々現役世代が長生きするための身長体重のバランスは、BMI (ボディマス指数) で22くらいといわれています。これは全国の公務員を対象にした検診データの分析によるもので、したがって対象年齢層は18歳から60歳くらいまでです。では65歳以上の高齢者の適切なBMIは22なのか、というとそうではないとわかってきました。(図4)
- BMI22の人の死亡リスクを1とした場合、BMI22以下の人の死亡リスクは高くなっていきます。一方、BMIが22を超えても、死亡リスクは逆に下がっていきます。男性高齢者の場合、BMI27.5〜30の死亡率がもっとも低くなっていますが、これは俗にいう肥満体の状態です。若者にとって健康的な身長体重のバランスと高齢者のそれは全く異なるのです。
- 腎臓が悪くなると、蛋白質の摂取が制限されますが、高齢者に蛋白質制限を行うと、腎臓は治っても、サルコペニアが増えて死亡率は高くなることがわかりました。高齢者の腎不全の食事指導のあり方は今後変わっていくと思います。
- さらに高齢者には塩分制限の必要性も低いのではないかと考えています。基本的に動脈硬化は加齢とともに進んでいきますから、歳とともに血圧も上がりますが、この上の血圧(収縮期血圧)は生涯の塩分の積算摂取量に比例すると言われています。ですから、高齢になってから塩分制限しても動脈硬化関連死亡率はあまり下がらず、むしろ塩辛いのに慣れていた人が塩分制限で食事が進まなくなり低栄養になってしまったら本末転倒です。多少塩気が多くてもいいから食事を美味しくたくさん食べて、しっかり身体を動かすことが大事です。アメリカにおける栄養状態と退院後の生存率の関連についての調査データでは、栄養状況の良好な人の8割は退院後100日生存していますが、低栄養の人の生存率は5人に1人です。
- 低栄養とは一般的には必要なカロリーやタンパク質が足りない状況を指しますが。我々に必要なものはカロリーやタンパク質以外に、体の中で合成できない必須栄養素がありものです。例えばビタミンDが足りないと転倒リスクは1.5倍高くなります。
- 筋肉の量はバランスが大事で、筋肉をつければ転ばなくなるかという単純なものではありません。また筋肉を増やすために必要なものは運動と栄養と睡眠ですが、筋肉を増やすために必要な蛋白質摂取量は、22歳では体重1kg当たり、1食0.24g/kg/1食ですが、70歳では0.44g/kg/1食です。つまり体重60kgの70歳高齢者が筋肉をつけるには25gの蛋白質をとることが必要で、これは牛乳1リットル分です。ですから、高齢者がリハビリとして筋肉トレーニングを行うと、筋肉はつかず、かえって体重が減るということが起こることがあります。
(5) オーラルフレイルの予防
- のどの筋肉も使わないと機能低下します。入院で食事が止められ、口腔の筋量低下で嚥下障害が起き、退院後はペースト食しか食べられないとなります。我々にご紹介いただく患者さんの多くはペースト食しか食べられない状況と言われていたことが多いのですが、実際に食べる機能がない人はごくわずかで、薬の服作用で食べられない人が多くおられます。薬の副作用で口が乾くと、食べたり飲んだりができなくなります。退院時の嚥下機能評価で病院の医師からは大抵ペースト食しか食べられないと診断されますが、それは入院中に食事が止めらえた状態で、その人の食べるコンディションが整っていない状態で嚥下機能評価されたことがあると思います。我々は在宅高齢者にモンブランケーキを食べてもらうことで、嚥下機能を見るということをしたことがあります。
- 退院後にペースト食しか食べられないとなると、食べる意欲がなくなり、低栄養となりますし、嚥下機能がさらに低下していきます。さらに高齢者夫婦のみ世帯で、家でペースト食を作ることができるのかということもあります。
- 亡くなる直前に摂食機能が残存している人は4人に1人で、多くは点滴や胃瘻を受けておられます。どうやったらその人が安全に食べられるかを考えながら食事支援を行うことが必要です。