- 予防医学は3段階あります。一次予防は“潜在的リスクの管理”で、例えばこの人は摂食機能が低下しているから誤嚥性肺炎が起こりやすいから、きちんと口腔ケアをして、栄養を摂ってもらおうとか、あるいは転倒しやすい人は、転びにくい生活動線を工夫して、なるべく転倒骨折しないようにしようなどということです。
- 二次予防は“早期発見・早期治療”です。一次予防がうまくいかず病気になってしまっても、なるべく入院しないで済むよう、在宅で治療できるうちに発見しよう、ということです。誤嚥性肺炎は死亡率の高い恐ろしい病気ですが、早い段階で発見できれば、内服薬だけで治癒できる人がほとんどです。発見が遅れると、意識レベルが低下し、低酸素血症となり、食事がとれなくなり、入院が必要になってしまいます。肺炎で入院になると、先ほどご紹介した通り、3人に1人くらいが亡くなります。感染症では早期発見がとても大事なのです。
- 三次予防は“早期退院”です。命を守るためにどうしても入院が必要になることがあります。この場合、大切なのは、なるべく早く退院し、地域に帰ることです。入院1週間では平均要介護度が0.5 、1ヶ月入院すると1.5上がります。入院の長期化を避けるためには、入院中に全部治そうとするのではなく、在宅でケアできるレベルになったら早めに退院する、ということです。そのためには、どれくらいになったら家に帰ることができるか、家族の介護力や在宅での療養支援の状況を在宅側から病院にきちんとお伝えすることが必要です。
(4) 低栄養の予防
- 悠翔会で診させていただいている在宅高齢者のおよそ9割が低栄養、7割がサルコペニア (筋量減少)、8割がフレイル (筋脆弱性) という状態でした (図3)。
- 在宅高齢者は一言でいえば、栄養状態が悪く、筋肉が弱っているということです。中でも、肺炎を起こした方で見てみると、低栄養はほぼ100%、サルコペニア、フレイルもともに9割前後です。骨折も同様です。肺炎と骨折はまったく別々の病気ですが、低栄養と筋量減少・筋脆弱性という背景要因は全く同じなのです。
- 高齢者は食事の量が少ないものです。食が進まなくなり、まあ年相応かなといっているうちに栄養状態が悪くなります。栄養状態が悪化すると、基礎代謝を下げ、不足する栄養素を補うために、骨格筋が分解されてしまい、筋肉の量が減少します。筋量が減少すると運動機能が低下し、運動機能が低下すると動かなくなります。するとますます食欲が低下し・・・という悪循環に陥ります。これを栄養学的には負のスパイラルと呼んでいます。口腔機能が低下すると誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。骨格筋が減少すると転倒骨折しやすくなり、その結果寝たきりになれば褥瘡や尿路感染のリスクも高くなります。それにより認知症の進行が加速します。
- 在宅高齢者の病気は色々なものがありますが、いずれも根っこにあるものは共通で、それはすなわち食事量の減少・低栄養から始まる負のスパイラルです。しっかりご飯をたべて栄養状態を改善すれば負のスパイラルを正のスパイラルに変えていくことができ、そこを多職種連携でやっていこうということになるのですが、そもそも高齢者に対する栄養ケアが適切な理解で行われているのかということがあります。