第三回目を迎えた「まちなみ住宅」100選は応募総数も毎年着実に増え、今回は392点に及んだ。このコンペが広く知れわたり定着したことが伺われる。応募者は大都市を抱える関東、近畿を中心に全国にわたり、特に今回は沖縄からの応募が数点あった。職業別に見ると、何らかの形で住宅設計に関わっている人達が大半で、年々設計コンサルタントが増え今回は応募数の半分に達する一方、ハウスメ-カ-からの応募が減った。部門別では戸建て住宅が半数以上あり、なかでも狭小住宅が56件と増え、集合住宅は減ったものの既成市街地の小敷地に建つものが多く、コンペの意図が理解されてきた。全体に内容や表現力は年々向上し、甲乙つけがたく審査委員を悩ませるほどであった。
 内容的には歴史的文脈で解決を図っているものや、既存の環境を維持しながら建て替えたもの、まちなみに豊富な緑を取り込んだものなど従来から多いテ-マに加え、今日的課題である密集地の建て替えや、まちなみを風景と見立てたもの、あかりにより夜の景観を意識した提案など多岐にわたった。特に時間軸と空間軸の両方の提案をしている作品や単に周辺環境に同化するだけでなく新しい空間を提示し、まちなみに新な価値観を創っている作品が目を引いた。
 表現力では、設計コンサルタント応募者が増えたこともあり、簡潔で要領良く、特に写真による表現に優れた作品が多々あった。
 受賞作品にはまちなみの視点を持ち、内容意図が明確に表現された作品が選ばれた。特に国土交通大臣賞を獲得した「東大利スクエアタウン」と題する作品は、「自然と共生27年」((財) 住宅リフォーム・紛争処理支援センター理事長賞受賞) と共に高い評価を得たが、提案内容もさることながら今日的課題である、密集市街地の建て替えを時間をかけて解決し、既成市街地のまちなみ改善に多くの示唆を与えているところが決め手となり選ばれた。
 今回も優れた作品が多く選ばれたが、これらの作品に代表される“まちなみへの配慮”が、熟成されていき、より良いまちなみ造りの活動に広がっていく事を期待する。

住宅月間中央イベント「まちなみ住宅」100選審査委員会
委員長  陣内 秀信
作品展示をご希望の方へ
 11月以降、イベント等で本入賞作品展示のため作品貸し出しをご希望の公共団体、NPO 等の方がおられましたら、相談にのりますので、ご一報ください。
住宅月間中央イベント「まちなみ住宅」100選 事務局
03-3592-6441
国土交通大臣賞※1
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受賞者名: 井上守建築事務所 井上 守
作品名: 東大利スクエアタウン
寸評
既成市街地の再生が成功した良い例である。出来上がったまちなみも周辺と違和感なく、いままでのコミュニティーが維持されているのがわかる。
(社)日本建築士会連合会 会長賞※2


受賞者名: 窪田勝文 / 窪田建築アトリエ
作品名: I-HOUSE 海に臨む住宅


寸評
まちなみを大きく風景ととらえ、造形的な白い壁が海と陸の間にあって周囲の景観を引き締めている。
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(財)ベターリビング 理事長賞※2


受賞者名: 中辻正明+中辻雅江
中辻正明・都市建築研究室
作品名: 北本の住宅 M2D+MA


寸評
周囲の落ち着いた住宅地にあって、変形な敷地形状を巧みにいかしたデザインは、外壁のやわらかい板材の効果もあり、周辺のまちなみに主張しながらも調和している。
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(財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター理事長賞※2


受賞者名: (株) アーツ&クラフツ建築研究所 杉浦伝宗
作品名: 自然と共生27年


寸評
歳月とともに樹木が育ち、それに呼応するように建物が増改築され、内外空間が一体化し、まちなみに潤いを与えている。
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住宅月間中央イベント実行委員会 委員長賞※2   7件


受賞者名: (株) アーツ&クラフツ建築研究所 杉浦伝宗
作品名: 一間通りに面した家


寸評
半透しの丹精な格子のファサードが、狭小道路の空間に広がりと個性的な表情をつくる。
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受賞者名: 竹原義二 / 無有建築工房
作品名: 100m²の狭小敷地に建つ、内と外が連続する玉手箱のような住まい「101番目の家」


寸評
光、影、風といった古来の知恵を木とコンクリートを使い巧みにデザインされた家で、まちなみに表情を与えている。
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受賞者名: (株) 石川淳朗建築設計事務所 石川淳朗
作品名: 古い街並みに潤いと息吹を放つ住宅


寸評
通りすがりに長屋の中門から見えるアプローチは、石畳、緑、竹垣、格子戸で巧みに構成され、表通りの長屋とあいまって昔ながらのまちなみを見せている。
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受賞者名: 堀部直子 (堀部直子建築設計事務所)
作品名: 十月桜の家


寸評
桜を取り込んだポリカーボネイトにより囲まれた中間領域がシンプルな形態に変化をもたらし、まちなみに奥行きを与えている。
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受賞者名: 吉村徳政 高田典夫 / アトリエテン
作品名: LinkS./透明感のある集合住宅


寸評
中庭からのアプローチ、ファイバーグレーチングによる中間領域の演出などが、単調な集合住宅のファサードイメージを一新している。
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受賞者名: 三井不動産 (株) 戸建住宅事業部長 片山照也
作品名: ファインコート三鷹
貴重な樹木を保存・活用した「修景」思想のまちなみ


寸評
歴史的記憶をとどめる保存樹木は、環境への配慮と同時に新しい住民のシンボルともなる。
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受賞者名: 岡野秀臣
作品名: 周辺に緑をふりまく
住宅兼クリーニング店


寸評
緑で覆われたクリーニング店はユーモラスでもあり、街角の景観に和みを与えている。
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優秀賞※3   10件


受賞者名: 三瓶満真 / インフィールド
作品名: 「世田谷の住宅」


寸評
建物と緑道が一体化し、豊富な緑量が個性的外観を持つ家々を違和感無くつなげている。
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受賞者名: 和田修二環境建築工房 和田修二
作品名: 街並みへの参加を意図した室津の家


寸評
瓦屋根、白壁、木格子などで構成した住宅は失いかけた古いまちなみを蘇えらせている。
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受賞者名: 上原信男
作品名: 屋根及び壁面・塀の緑化
(パッシブクーリング)


寸評
アプローチの工夫、豊富な植栽、スクリーンなど巧みな手法は、沖縄の気候風土に合い地域特性を出している。
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受賞者名: (株) 都市デザインシステム
設計部 中原典人 中鉢朋子
作品名: まちなみに配慮した
環境共生型コーポラティブハウス


寸評
既存樹木の保存を図り、建物の配置やバルコニィーの材料など工夫を行い、周囲の戸建住宅街のまちなみに調和させている。
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受賞者名: (株) ユニワールド
 細谷克子、細谷智雄
(株) 竹中工務店 東京本店設計部
 関谷和則、車戸城二
作品名: 邸宅街の街並みを
強化・再構築するデザイン


寸評
都市部の邸宅街に建つマンションのあるべきデザインや環境に回答を与えようとしている。
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受賞者名: 玉家ホームサービス株式会社 今川 悟
作品名: 金沢の歴史的町並み保存


寸評
両隣の建物を見ればこの住宅の良さは明らかであり、千本格子や押し縁下見の手法が周囲に伝播し、歴史的保存地区内のまちなみが改善されるのに期待が膨らむ。
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受賞者名: 長尾勝彦+デザインオフィス
作品名: 三つの違う壁で構成された家


寸評
道路側の壁面の形態や材料に変化を出すことにより、閉鎖的になりがちな道路側ファサードを柔らかいイメージに仕上げている。
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受賞者名: (株) オウ環境設計事務所
作品名: 共有のパサージュを持つ戸建住宅群


寸評
各戸境に小道を通し緑化し、道路側の植栽と合わせ緑豊かな住宅地を形成している。
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受賞者名: つくば市 株式会社フケタ設計
作品名: 伝統的集落のイメージを継承し、『多様性のある統一』をテーマにした集合住宅。


寸評
地域の集落をイメージし、環境共生をテーマにしたこの住宅地開発は、ランドプランも良く、デザインも統一され美しい景観を見せている。
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受賞者名: 深沢レジデンス管理組合
上野・藤井建築研究所
(株) アークブレイン
(株) フェリックス
稲垣道子
作品名: 時を隔てて、まちなみをつなげる


寸評
昔ながらの緑豊かな邸宅街の趣を保つよう、既存樹木を残し、低層集合住宅に建て替えた好例である。
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奨励賞※4   19件


受賞者名: 千野保幸、千野惠美子
作品名: 「心を育てる家」


寸評
コミュニティー空間を創ることにより、密集地における生活を豊かにしている。シンプルなデザインも好感が持てる。
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受賞者名: 有限会社設計処草庵 中原賢二
作品名: 新・京町屋


寸評
昔ながらのデザインを踏襲しながら、環境共生住宅としての装置をつけ、寸胴で単調な3階建ての建て替えに異議申し立てをしている。
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受賞者名: atelier A5一級建築士事務所 + オーノJAPAN
清水貞博、松崎正寿、清水裕子 + 大野博史
作品名: 旗竿敷地の靄 (もや)


寸評
建物を透かすことにより内外を一体化し、密集地域に建つ住宅やまちなみに広がりをあたえている。
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受賞者名: (株) 玉家建設住宅設計研究室
 岡山善哉
作品名: 松の木の迎える家


寸評
旗竿敷地であるが、既存の松に瓦屋根の美しい佇まいである。周囲は近代的建物に囲まれているが、入り口に止まると、古都金沢を彷彿させる。
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受賞者名: 加藤詞史+Landfall
作品名: 伏しめがちな家


寸評
外に対して軒を押さえ、土間に続く入り口を下見板を使って柔らかさを出し、塀を巧みに配した空間構成は道行く人に親しみをあたえる。
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受賞者名: 森下 修 / 森下建築総研
作品名: 透かしの家


寸評
建物を透かすことによりまちなみに奥行をださせ、夜は建物全体からの光がまちの明かりになっている。
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受賞者名: 小島真知建築都市設計事務所
 小島真知
作品名: 切妻の家


寸評
切妻屋根に黒い鉄板の外壁によって昔ながらのまちなみのイメージを残しながら建て替えた好例。
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受賞者名: (有) HIRO建築工房 伊藤昭博
作品名: 東金井町の緑の家 (根岸俊行邸)


寸評
屋上や外壁を緑化することで、緑の多い田園風景に溶け込ませようとの試みである。道路側への配慮に一工夫ほしいところ。
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受賞者名: 増田宗正
(有) 清田育男計画設計工房
 代表取締役 清田育男
作品名: バードヒルズ洋光台
「戸建風集合の家なみ」


寸評
建物の分節化、勾配屋根、各ブロックゲートなど従来手法であるが、周辺の戸建住宅のまちなみに溶け込んでいる。
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受賞者名: 西沢大良建築設計事務所 西沢大良
作品名: 調布の集合住宅A、調布の集合住宅B


寸評
狭小道路を挟んでファサードを明るく、集合住宅らしからぬ魅力的なファサードを見せている。それにしても電柱、電線はなんとかならないものか。
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受賞者名: 笹渕義正
作品名: 過去の記憶を継承する家


寸評
用途を変え、外観は周辺の昔ながらの集落に調和させ、建物を存続させるリノベーションは、これからの方向性を示唆している。
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受賞者名: 甘利享一建築設計舎 主宰 甘利享一
作品名: 塩川五右衛門商店併用住宅


寸評
従前の建物と比較すると明らかなように、昔のまちなみを良く踏襲した建物である。手馴れた手法によりデザイン精度が高く、単体として見た場合でも美しい。
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受賞者名: (株) 玉家建設住宅設計研究室
 柱山教司
作品名: 金沢市泉ヶ丘10邸のまちなみ


寸評
古都金沢に調和した落ち着きのある外観は、地域性の無い開発型住宅の多い中、好感がもてる。
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受賞者名: ポラスグループ (株) 中央住宅
 戸建分譲事業部
作品名: 旧日光街道「越ヶ谷宿」に蘇る、
新しい町家住宅


寸評
葺き下ろし屋根、千本格子、駒寄せなど従来の手法に新しさはないが、デザインの精度は高く、2棟並ぶことにより街並みに存在感を与えている。
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受賞者名: (株) 都市デザインシステム
 コーポラティブ事業部
 マネージャー 藤田弘之、中村秀樹
 チーフ 岩丸誠一 プランナー 塚本裕樹
 スタッフ 平井慎一、相樂章朗
(株) エステック計画研究所 所長 大澤良二
東京電力 (株) 販売営業部 課長 森村和三
作品名: 環境共生とまちなみ


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寸評
コーポラティブによる住人の納得づくのまちづくりは、環境というコンセプトを大事にしながら統一と個性が程よくバランスしたまちなみを見せている。


受賞者名: 増田建築アトリエ 一級建築士事務所 増田成政
作品名: <静寂の庭 コートハウス>


寸評
木塀と塗り壁が柔らかく、中庭の樹木も見え、夜のあかりが漏れ、中の生活が感じられる温かみのあるまちなみを形成している。
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受賞者名: 平岡孝啓+平岡美香
平岡建築デザイン
作品名: 再開発地の潤いの再生 矢野歯科医院


寸評
無味乾燥になりがちな再開発地区に、外壁を文節し、黒の下見板と白塗り壁に分けた建物は、外に向かって表情を出している。
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受賞者名: セキスイエクステリア (株)
ザ・シーズン世田谷 粟井琢美
作品名: 枝垂れ桜の街並み


寸評
既存の桜を中心に外構を無難にまとめ、まちなみのシンボルである桜並木を維持している。
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受賞者名: 川津悠嗣
作品名: 風景を創る 木によるリフォーム


寸評
建物をそのままに、ファサードを木製のルーバーにすることにより、新設されたウッドデッキと相まって従前とは全く違った表情をつくっている。
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入選者には、各々、表彰状と副賞が授与されます。

※1 国土交通大臣賞 副賞 30万円
※2 関係団体長賞 及び実行委員会長賞 副賞 5万円
※3 優秀賞 副賞 3万円
※4 奨励賞 副賞 2万円