受賞者名 井上守建築事務所 井上 守
作品名 東大利スクエアタウン


●まちなみ配慮のポイント
 老朽化した「木賃住宅」密集地である寝屋川東大利地区のまちづくり事業で、木賃住宅の共同建替事業と公園整備他で実施段階だけで10年強を要した長期にわたる事業である。段階整備の中での景観形成を図るため、「街並みデザインガイドライン」を策定し進められた計画である。その主要な内容は (1) 1mの道路側壁面後退 (2) 後退部分の歩道・緑化整備 (3) 道路に面する駐車場のペイブメントと植栽 (4) 建物の適度な分節化 (5) 共同建替地主間の境界部のオープン化 (6) スカイラインの軽い変化他であった。結果的に民間建替えゾーンの全てを応募者が設計したため、街並みの一体性は確保され、この地区での新しい街並みの形成が実現した。

講評
 この作品は、古い木賃アパ-トや長屋の建て込む木造密集市街地の建て替えで、住宅と公園、道路などの整備を行い、防災性能と住環境の向上を図るもので、大都市の抱える今日的課題への回答例である。事業は旧都市整備公団 (現都市機構) の拠点的共同建て替えに始まり、その後の4期にわたって民間による周辺沿道共同建て替えを実現した10年間の長期開発プロジェクトである。高齢化した地元地権者や周辺住民をはじめ、寝屋川市、旧大阪府街づくり推進機構 (現大阪府都市整備センタ-)、旧都市整備公団、そして都市計画並びに建築設計コンサルタントなど官民一体の努力の結晶であり、敬意を払いたい。
 再開発はとかく事業採算性から、現状のスケ-ルとかけ離れたまちをつくりがちであるが、ここでは関係者の長年の対話やスタディ-から生み出された主に六つからなるまちなみガイドラインを作成し、それに沿って計画が進められた。壁面後退、歩道緑化整備、駐車場のペイブメントや緑化、道路側敷地のオ-プン化、建物の適度な分節化、勾配屋根によるスカイラインの構成など様々なデザインボキュブラリ-を基に、きめ細かく丁寧につくりあげている。中央のアベリア公園をはじめ、3階建てで二重壁により分棟された住宅群、道路は車道を5m以下に抑え両側に植樹するなど、ヒュ-マンスケ-ルでアメニティ-の高いまちなみを見せている。
 この作品では、最初からまちづくりに関わり対話を重ねることで人々の信頼を得た一人の設計者が、民間の共同建て替え部分を全て設計した。そのことが単にガイドラインを基に各自が設計したものに比べ、まちとして見た場合より魅力的な環境を生むことになり、居住者も愛着をもって住み続けていることがわかる。


「まちなみ住宅」100選 審査委員会
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