講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』
高橋公さん・嵩和雄さん「若者の田舎暮らしの動向−NPOふるさと回帰支援センター−」
高橋 公さん
認定NPO法人ふるさと回帰支援センター 代表理事・事務局長。1947年福島県生まれ。早稲田大学中退。同77年7月全日本自治団体労働組合(自治労)入職。97年10月〜2003年9月連合社会政策局局長、05年9月〜全日本自治団体労働組合(自治労)特別執行委員。菅内閣「新しい公共」推進会議委員、東日本大震災義援金配分割合決定委員会有識者代表委員等を歴任。団塊世代の人材・情報バンク「プロジェクト猪」代表。神道夢想流杖道5段。

嵩(かさみ)和雄さん
認定NPO法人ふるさと回帰支援センター 副事務局長。1972年東京生まれ。東洋大学大学院工学研究科博士後期課程単位取得退学。2001年に阿蘇地域振興デザインセンター研究員を経て熊本県小国町の(財)学びやの里に所属。九州ツーリズム大学、廃線跡地活用事業等、都市農村交流事業に携わる。2009年に東京にUタ−ンし、現職。



1.ふるさと回帰支援センター
2.空き家のサブリース(篠山市)
3.和歌山方式(那智勝浦町)
4.半農半X(島根県)
5.空き家をいかに掘り起こすか
6.行政主導のお試し滞在(飯山市)
7.空き家バンクの展開(南房総市)
8.一方通行から循環へ
9.移住、定住、永住
10.まとめ



1.ふるさと回帰支援センター
松村:  最近は若者の地方移住が目立つようです。その全体的動向をうかがえるのではないかと期待して「ふるさと回帰支援センター」に伺いました。
高橋:  もともとこのNPOは「連合(日本労働組合総連合会)」の提案から始まりました。1960年代中頃に集団就職で上京した連合組合員にアンケートを取ったところ、「将来は田舎に帰りたい」という回答が4割を占めていたんです。そうした団塊の世代の田舎暮らしを応援しようということで2002年にスタートしました。

ところが、2008年のリーマンショック以降、若者が活躍できる場を求めて地方に戻り始めたんです。それまではシニア世代の相談が6割近くを占めていたので、早晩行き詰まるかとも思っていたのですが、年を経るごとに20代や30代の相談が増えてきました。特に去年くらいから面談やセミナーへの参加が急増していて、昨年7月以降は相談件数が月に1000件を超えたりするようになりました。


松村:  確かに30代が一番多いですね。団塊の世代が一段落つけば終わると思っていたが、それは違うと。
高橋:  興味深いのは移住希望地の変化です。2009年の人気ベスト10は全て東日本でした。それが2013年になると3位に岡山、5位に熊本が入り、それ以下にも西日本が続きます。
西田:  東日本大震災の影響ですか。
高橋:  われわれが想像するよりも、お母さん方は放射能が子供へ与える影響を考えているようです。やはり原発事故以降、色々な価値観が変わったと思うんです。私どものNPOとしては、そうした新しい価値観から地方を捉える取り組みを応援していきたいと考えております。
嵩 :  2005年に内閣府が行った調査によると、地方移住の関心が「ある」や「どちらかというとある」と回答した割合は、当時の20代の方が団塊の世代よりも多かったんです。ですから、確かに震災の影響もあるとは思いますが、漠然と興味を持っていた人たちが、東日本大震災をトリガーとして動き始めたとも考えられます。
高橋:  もう一つの要因として、日本の雇用制度の変化が関係しているのかもしれません。かつてのサラリーマンは、入社してから引退後の悠々自適までを難なくイメージできました。しかし、今の若い人たちは終身雇用も年功序列もないから、自分の一生をイメージしにくい。だったら、むしろ地方に行った方が豊かさを実感できる暮らしが可能になるのではないかという期待が広まっていると思います。実際、地方に移住した若者には、いわゆる一流大学の卒業生がざらにいます。一部かもしれませんが、優秀な者から地方に向かうという傾向もリーマンショック以降に生まれたようです。



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