講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


12.まとめ


今回は、木造住宅を250軒以上も設計してきた三澤さんご夫妻に、最近の住まい手のライフスタイルに関してお話を伺うつもりで千里ニュータウンまでやってきた。ところが、ライフスタイルという観点では、住まい手の話ではなく、ニュータウン内に文字通り職住近接で暮らす三澤さんたち自身の話が一番の収穫だった。

文子さんは「ここに住んで本当に幸せ」とおっしゃる。自分の居住環境に関して、しかもそれを造る専門家の方から、これほどダイレクトで衒いのない発言を聞くことができたのには少々驚いた。本当に幸せなのだ。人それぞれにどういう状態を幸せというかは微妙に違うだろうが、話を聞けば聞くほど「なるほど、なるほど」と得心させられる。お二人の話には、既に熟成した住宅地になりつつあるかつてのニュータウンでのライフスタイルを豊かにイメージさせてくれる具体的なヒントがてんこ盛りだった。

その数々のヒントに共通する背景を一言で言えば、徒歩圏内での人間関係の複層性ということになろうか。徒歩圏内に食料品店、風呂屋、ジムがあり、近所の人が気楽に立ち寄れる喫茶店や会合空間(事務所の打ち合わせスペース)を自ら運営しているということ、そして何よりも職住近接により日中もそこで暮らしているということ、それが地域内での人間関係の複層性を成立させている。

遠距離通勤を強いられるサラリーマン、ましてや単身赴任の人々にはまねのできないスタイルではあるが、自らが高齢化する将来、「ここに住んで本当に幸せ」と言い切れるようになるためには、日々のワークスタイルに関する心がけ、家と町の間のちょっとした空間のしつらえ方等、今からでも前向きにできることは色々とありそうだ。

(松村秀一)



ネオン輝く大都会でしか住みたくないと思っていた私であるが,今住んでいる芦屋も何のことはないニュータウンの一種だなあと思い,変に居心地がいいニュータウンというものを評価しつつある。住めば都ということなのか,居住地として本当に優れているのか未だによく分からないが,三澤夫妻の力強いニュータウン派の言葉を聞くと,都心よりもむしろニュータウンにこそ輝く未来が埋まっているような気がしてきた。少なくても三澤夫妻が実践されている職住近接のライフスタイルは,誰にでも真似できる生活ではないが,ニュータウンでの魅力的な生き方の一例を提示している。その中で私が感じた実践可能性の高いキーワードは「土足」である。靴を脱いで他人の家に上がるからこそ親密になれるのも事実であるが,その分どうしても敷居が高くなる。家から外に出る場合も同様で,食堂でも簡単な仕事場でも何でもいいから家の中に人を呼べる土足空間をつくってみるのは案外いける話かも知れない。

個人的に「ニュータウン」の一番の問題は,土地の用途が混在せずにきれいに分けられていることだと思っている。もちろん都市計画的には分けた方がいいということも一応理解しているつもりである。

芦屋の場合は山や川,それに海が近くにあり,自然に恵まれている点でも批判する点が見つからない。更に交通も便利で,実際何度も引っ越しを考えては,移動せずにとどまっている。

そもそもニュータウンという場所の大部分は住宅地で,私の大好きな商業地などは,センターと呼ばれる場所にちょこっとしかない。その整然としたまち並みを多くの人が愛していることは自明であるが,私にはどうにも耐えられない。

最大の問題は,計画されたハードの均質性というよりもその中身にあるのだろう。つまり,様々な世代が入り交じりにくい構造にある。うまく世代が入り交じっていれば,もっとマチらしくなるのではないだろうか。

(西田徹)




前ページへ  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  


ライフスタイルとすまいTOP