スウェーデン『住み続ける』社会のデザイン(前編)

(3) 現状の住宅政策への評価

 私は2012年から13年の研究滞在で「現状の住宅政策への評価」のテーマで調査しました。多くの政治家あるいは研究者が、スウェーデンは現在ではhousing Policyに関してはNo Policyであるというような評価を下していました。
 スウェーデンの中でも、ストックホルム、ヨーテボリ、マルメの三大都市では、急速に都市化が進む中で、住宅地格差が深刻化しています。なかなか日本では報じられておりませんが、ヨーロッパの大都市部では現在どこでも住宅地格差が課題となっております。
fig1  図1は、ストックホルム中心部の地下鉄3路線の路線図ですが、青い丸の部分は、中心部の非常に利便性が高いところと湾岸部の新規に開発されている住宅地で、高級化した住宅地という評価を得ています。一方、赤い丸の部分は、英語ではsegregatedあるいはstigmatizedと言われているところで、“低廉化”と訳しましたが、地下鉄の終点に近い、1960年代あるいはそれ以前に建設された郊外住宅地が低廉化住宅地と評価されています。1960年代のスウェーデンは、日本の朝鮮特需と同じような状況で、ヨーロッパ特需による大きな経済成長を遂げています。その時代に、やはり日本同様、三大都市圏で多くの住民が移り住んでくる急激な都市化が発生し、鉄道網が廻らされ、円心状に郊外住宅が建設されました。スウェーデンでは1965年から75年にミリオンプログラムとして、100万戸住戸建設計画というものが策定されまして、集合住宅地が形成されていくのですが、現在ではそうした地域が低廉化という評価を得ています。
 港湾部のハンマルビィ・ヒュースタッドは、低炭素化社会に向けた様々なエネルギー効率に関する試みを行なっている住宅地で、日本からも多くの方が見学に行っておられますが、こういったところは非常に所得の高い、若い階層が暮らす住宅地へと変貌しています。こうした高級住宅地の人口動態で非常に興味深い点は、高齢者人口が減少していることです。かつては、高齢者は利便性の高い中心市街地に住むというライフスタイルが一般的だったのですが、近年はこうした高級化に伴って住居負担が高騰し、高齢者には住めない状況になっています。住宅の所有形態は、先ほど協同組合という住宅供給手法についてお話しましたけれども、組合住宅所有がほとんどです。あるいは住居費が高騰している中で、公的賃貸住宅の供給が非常に不可能なので、最近は民間ディベロッパーが賃貸住宅を供給しはじめています。
fig2 fig3  一方で、これも日本と同様ですが、高度経済成長期にホワイトカラーの方たちが住んでいた、非常に良く計画された質の高い住宅地が、現在では高齢者世帯や低所得層などが住む、低廉化した住宅地へと姿を変えております。低廉化した住宅地には、移民によって構成された街と、低所得のスウェーデン国民によって構成された街の2種類がありますが、特に移民が多い街ではスウェーデン語が話せず、そのために教育がきちんと受けられず、さらには失業している住民が多く、そうした住民に対してどのような福祉サービスが必要かというようなことが取りざたされています。スウェーデンは依然としてEU諸国の中では比較的多く移民を受け入れようと努力をしている社会です。そういった方たちの街やすまいを実際に訪れても何の危険も無いのですが、言葉の取得ができない、教育、就労が保証されないということでなかなか問題解決が図れないという状況が蔓延しています。近年ではむしろセーフティネット的な観点から、移民の方たちへどういうような住まい、あるいは生活を保証していくかということに社会全体の関心が移っているように思います。しかし一方で、高齢化率は上昇しています。2015年時点でのスウェーデンの高齢化率は19.94%で、日本に比べると低いのですが、高齢化は確実に進んでおり、高齢者対応・障害者対応という福祉の枠組みについては、今でも非常に優れた試みを行なっております。