小津さんが教えてくれる金沢
HATCHiの前での金沢の都市構造と歴史の解説からはじまって,八百萬本舗の店内から見える金沢城東内惣構堀跡の石垣と水路の紹介,金澤町家の構成と川向いの銭湯について触れたあとには,神社を通りながら金沢に祭りがないことの説明。小津さんによる解説付きの町歩きはさながらブラタモリのようだった。
それに加えて歩きながら紹介される,小津さんが関わられた建築,現在進行形のプロジェクトの数々と多様さに圧倒される。この店は元々こういう歴史がありこんなことを意図しました。この洋館ではこのような計画があります。あのビルは所有者からこんな話があります。商店街にはこんなふうに関わっています‥etc, etc 。
タウンアーキテクトという言葉があるが,小津さんはまさに現代における新しい地域の建築家のあり方を示してくれているように思う。この連載シリーズでは建築家の新しい生き方や節目の出来事に触れることがしばしばあるが,小津さんにもR不動産の馬場正尊さんや,地方移住がテーマの山崎亮さんの対談など幾つかのきっかけがあった。
そして金沢21世紀美術館。建築の形式としても地域への影響という点でも、疑いなく美術館建築のエポックだが,小津さんが金沢に戻る上でも重要なきっかけになっていた。建築は実に色々な形で町や人に影響を与えるのである。市役所で評判になり、その後の活動につながったという小津さんのカフェ運営の企画書はぜひ読んでみたい。
歩くにつれて江戸,明治,近代,そして他ならない今が次々に登場する特別な町歩きから一ヶ月が経とうとしている。ふと八百萬本舗の待合の雰囲気や金澤町家の細やかな格子,そして路地を上がった先に登場する神社や,不思議な様式の街角の建築の佇まいを思い出す。
一昔前は兼六園とひがし茶屋街と近江市場をまわるだけで十分満足していた金沢だが,21世紀美術館ができて,私達は注目する展覧会のたびに金沢を訪れ,違う季節を楽しむようになった。これからは,小津さんのおかげで,町のあちこちを歩き,様々な時代を楽しむために訪れることになりそうである。
(鈴木毅)
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