講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


3. 東日本大震災と事務所移転
松村:  東京以外のR不動産は金沢が最初ですよね。どういった経緯で金沢R不動産を開設したのでしょうか?
小津:  馬場さんとは知り合いだったんですよ。彼が東京R不動産を始める少し前だった思いますが、ある企業の本社ビルのプロジェクトを一緒にしたことがあった。その後、僕は金沢と東京を行き来するようになりましたが、金沢で設計の仕事がそう入ってくるわけでもない。何かないかなと考えていた時に、R不動産の地方版を思いつきました。
馬場さんに相談して、1年間ほど準備をして金沢R不動産を立ち上げましたが、立ち上げを構想している際に、ちょっとしたハプニングがあったんです。NPOの活動として、仮想R不動産というシンポジウムを21美で開いたんです。馬場さんも呼んだそのシンポジウムで、うちのスタッフが「僕たちが金沢R不動産をやります」って勝手に口走っちゃった。それで後に引けなくなり、2006年の年末にオープンした感じです。
松村:  じゃあその頃に金沢へ戻ってきたわけですか。
小津:  活動拠点を金沢に移したのは東日本大震災の後です。それまでは東京に設計チームがあって、僕一人が往復していました。金沢に戻るつもりはありませんでしたが、リーマンショックの頃から東京での仕事がつまらないと感じるようになってはいたんです。高層ビルが建っても街の新陳代謝に飲み込まれて、一瞬で忘れ去られてしまう。震災の日は金沢に出張していましたが、帰京してみると計画停電だしコンビニなどは殺伐としていました。つくづく寂しい街だと気付きまして、東京にいる必要はないと思えてきました。
そうこうしているうちに、青山ブックセンターで今でいう地方創生に関する山崎亮さんの対談があった。スタッフと一緒に聴きに行って、その帰りに切り出してみたんです。「うちの事務所が金沢に移転したらどうかな」って。そしたらスタッフも「そういう時代だと思います」と言うので金沢移転を決心しました。金沢で食っていける保証はありませんでしたが、拠点を移してみると状況が大きく変わりました。地方って住んでいない人には仕事をくれないんですよ。戻ってきた途端、色々な人からシンポジウムや委員会などに呼ばれたり、仕事をいただけるようになりました。



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