講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


6.農業への波及
大南:  寄井商店街は、神山で一番賑やかだった場所ですが、だんだん寂れていって食堂さえなくなってしまいました。酒屋だった建物の仲介を委託されたので、2年かけて飲食店をやってくれる移住者を探しました。結局、アップル・コンピューターに勤めていた女性がその家を買いまして、「カフェ・オニヴァ」という南仏料理店がオープンしました。
松村:  何歳くらいの方ですか。
大南:  40歳です。フランス滞在経験が長い方で、勤務先の仕事は面白いけどもうちょっと自分のやりたいことがしたいということで移住してきた。シェフはその女性の友人で、ワインの買い付けで10数年ほどフランスと日本を行ったり来たりしながら、夏はシャンブル・ドット(フランスの民宿)で働いたりしていた方です。

カフェ・オニヴァの改修工事に公的なお金は入っていません。お店の立ち上げの際には、県の緊急雇用対策事業を活用して従業員1人分の補助を1年間受けたようですが、建物改修は自費で賄っています。ここの料理には、別の移住者が作った天然酵母パンや有機栽培野菜が使われていて、神山の農家も無農薬のイチゴのジェラートを納めています。つまり、図らずもオーガニック・フードの循環が生まれている。

最初の変化はアーティストの移住でした。次にワーク・イン・レジデンスを始めて、新しく起業する人が入ってきた。さらにサテライトオフィスができて企業も来るようになった。そうすると人の流れができて、今まで成立し得なかったサービス業も生まれてきました。ビストロやゲストハウス、ピザ屋さんができました。これらの店ではオーガニック・フードが基本になっている。グリーンバレーは、農業支援に直接取り組んでいるわけではありませんが、いつのまにか地域の本丸とも言うべき農業に近づいていた。過疎の市町村は本丸から攻めようとして、農業中心に発想する傾向があると思いますが、それだと今までの発想から抜け出せないと思います。




前ページへ  1  2  3  4  5  6  7  8  9  次ページへ  


ライフスタイルとすまいTOP