講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


6.これからの千里ニュータウンの課題
佐藤:  具体的に将来人口の見通しを立てたりした千里ニュータウン全体の計画はあるのですか。
太田:  私の知る限りではそうした具体的な計画はないですね。千里ニュータウン全体のグランド・デザインがないまま、それぞれの敷地だけを考えた建替えが進んでしまっているのが現状です。街開きから50年を迎えた今、新たなグランド・デザインを推進する仕組みや体制づくりが急務ではないでしょうか。そのためには計画された空間の実際の利用状況を分析・評価することが求められると思います。
松村:  全体をコントロールする術がなくても、敷地の所有者毎の自由な事業化が進んでいるとすれば、「千里ニュータウン」という枠組が今後も実質的な意味を持ちうるんでしょうか。
太田:  住環境のしっかりした基盤は全体計画があったからですよね。住まいの近くに必ず公園があるとか、車が通らない歩行者路でまちを巡ることができるといったことはニュータウンならではの財産だと思います。
既にかなりの団地の建替えが完了していますが、これまでに実践された建替えを評価し、次の建替えにフィードバックする必要がありますが、そのような仕組みはまだありません。住民間の支え合いや交流を育むような住棟・団地計画や、コミュニティをコーディネートする仕組み、人材育成の場もありません。もちろん住区や団地の内側だけでなく、周辺との連携も考えなければなりません。例えば佐竹台のように団地内通路の地域開放といった考え方をもっと取り入れて、敷地外と解け合うような建替えができないか…。
松村:  夜道が危ないという問題点もそうですが、商業活動が入ってくるともう少し改善できそうですけどね。
太田:  街を維持していくためには「住むだけのまち」から脱却していくべきだと考えます。働く場を取り込むような住宅タイプも考える必要があるでしょう。商業・公共施設の再整備にも住民の意見を取り入れる体制を整える必要がありますし、そういった施設には就労の場を生み出していって欲しい。地域交流や地域活動は盛んになっていますが、地域の運営を維持していくための人材を育成したりコミュニティ活動をビジネス化していく必要があります。
佐藤:  どうしてグランド・デザインがないんでしょうか。
太田:  その原因の一つは大阪府が撤退したことですね。かつては大阪府によってニュータウン全体が管理される体制になっていたんですが、その管理主体がなくなってしまったんですね。府が撤退してからは吹田市と豊中市がそれぞれにやっているんですが、そもそも市は活用できる土地を持っていない。
鈴木:  街がむちゃくちゃにならないように、全てをコントロール下に置いて計画・開発していくという思想がずっと続いてきて、それが効きすぎている印象があります。主体が曖昧になりグランド・デザインがなくなってしまった今も。
太田:  グランド・デザインが全くないわけではないんですけど、具体性(実効性)がない。言葉で目標と理念が書いてあるだけで、例えばどういう形の団地を建てるのか、近隣センターをどう活かしてしていくのかといった事は何も決められていないし、そういうことを議論する場もない。千里ニュータウンの集合住宅地は、計画的住宅地から単なるマンション街へと変わりつつあるように感じます。



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