講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


2.公的賃貸住宅の建替えの進行
太田:  千里ニュータウンの全住宅の約85%は集合住宅です。また、全住宅の約60%を公的賃貸住宅が占めています。府営住宅では1980年頃に浴室と一室が増築され、1990年頃には簡易耐火の2階建てが中高層に建替えられたりもしています。ですから府営住宅の建替えそのものはかなり前から行われていたわけですが、2010年頃からは目に見えて加速してきました。一方、URの賃貸住宅は2007年にストック再生・再編方針が発表されました。まだ再生事業は本格化していませんが、耐震性に問題がある高層以外は、基本的に建替えない方針のようです。ちなみに公団・府公社が供給した分譲集合住宅は1990年代から建替えが始まりました。
松村:  「建替え円滑化法」(マンションの建替えの円滑化等に関する法律)ができる前のことですが、本当に全員合意じゃないと建替えられないのかという裁判がありましたよね。
太田:  新千里東町の府公社分譲住宅の建替えですね。その裁判で全員合意じゃなくても良いという判決が出ました。
松村:  それが契機となって、建替えの制度的な条件整備が一気に加速したわけですね。千里ニュータウンでは、実際の建替え事業はどのように進められていますか。
太田:  府営や府公社の賃貸住宅では、高層化によって生じた余剰地を民間事業者に売却して建替えの建設費を調達しています。府営住宅ではPFI方式(民間事業者の資本や技術力を活用する方式)が採用されています。売却された余剰地の部分には民間事業者によって分譲住宅が建設されます。基本的には一団地認定されているので、それを解除してから敷地が分割されています。ちなみに、公団・府公社の分譲住宅の方は土地建物譲渡方式によってほぼ全てが民間分譲マンションに建替えられています。



松村:  大阪府の負担なく建替えられているわけですか。それはそれで、うまいことできているようにも思えますね。
太田:  ただ、建替えによってそれまでのコミュニティの繋がりがなくなってしまったり、緑豊かな住環境が失われるといった問題も起きています。例えば転居先の住戸は抽選で決めるため、階段室単位にあった8戸から10戸程のコミュニティが分解され、高齢者が孤立しがちです。かつては世帯間を繋いでいた子供がいなくなったこともあり、建替え後の廊下型住棟では隣近所の住民の様子が分かりにくいので、近所付き合いがなくなったという声をよく聞きます。
また、従来の府営・府公社賃貸住宅は建ぺい率が低く、非常に広々とした外部空間を持っていました。特に府営住宅の囲み型住棟配置が作り出す中庭は千里ニュータウンの特徴となっていましたが、建替え後は立体駐車場が建てられて居住者の交流スペースが圧縮されています。新たに「広場」が設けられたりしますが、あまり人は集まらず閑散としています。



例外的な建替えもあります。佐竹台では、地域住民が地域のことについて自由に話し合う「佐竹台ラウンドテーブル」という場が設けられ、住民の要望が建替えに反映されています。そのため「OPH佐竹台」(府公社建替え団地)では地域に開放された団地内歩行者路、共同花壇、コミュニティカフェなどの住民のアイデアが採用されて、地域コミュニティの交流を考えた建替えとなっています。
松村:  民間事業者が建てたマンションはどうなっていますか。
太田:  分譲マンションは、セキュリティ重視からゲーテッド化する傾向にありますね。内側でこそ様々なコミュニティ活動が行われていますが、外との繋がりが希薄になっている。例えば千里中央の高層マンションは新千里東町に建っていても、東町の地域コミュニティからは外れているんですよ。地域の新聞を持っていっても断られるそうです。道に面して集会場を置くなど、外に開く努力をしているマンションもありますが、ゲーテッド化によって街並み自体が閉ざされた感じになってきている。通り沿いに立体駐車場を設置するマンションも多いので、以前の生き生きとした街並みが裏側的景観へと変わっています。



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