地域住宅団地再生事業に関する勉強会


(3) 意見交換

明治大学園田教授:佐藤様から、住宅団地再生が不明確なお話になりがちとの指摘がありました。実は郊外住宅団地の置かれている状況があまりに厳しいので、不明確なお話になってしまっているのではないかと、日々感じています。郊外住宅団地の多くは、5割が65歳以上と、超高齢化が進んでいます。2030年代は多死社会になると考えられていますが、どこでどんな亡くなり方をするのか、そして2040年代の急激な人口減少にどう対処するのかが、人口動態からは明らかな未来ですが、住宅団地再生ではまだ明確に語られていません。それで2つ質問したいのですが、1つ目は財源をどうするかです。民間企業も自治体もまちに関わるための手元のお金があまり無い中で、財源についてどこまで検討されましたか? 2つ目は財源にも関係するお話ですが、全国に3,000もの団地がある中で、全部を救うことは難しいと考えられますが、優先順位というか取捨選択について、どのように考えておられますか?
国交省佐藤氏:住宅団地の希望に満ちたイメージを描こうとしても、現実は厳しい状況にある中で、お話が不明確になっているところはあるのかもしれません。優先順位をつけることも行政が最も苦手とするところです。リソースは限られていますが、行政側として団地を取捨選択することは簡単ではないと思います。財源については、イニシャルでハード整備を支援したとしても、ランニングコストをどのように考えるかが難しいところです。
明治大学園田教授:自治体が団地再生に取り組む意義につながるお話ですが、自治体の一般財源の4割は固定資産税と都市計画税です。住宅団地が人口消滅の危機にあり、市街化区域の地価が下がり続けると、自治体が財源を確保できなくなります。日本型CCRCの取組みが行われましたが、期待されていたような人口移動は進まなかったようです。ただ郊外住宅団地は自然発生的なCCRCになりつつあり、そこに再投資することで自治体財源が割れないようにするというロジックが考えられると思います。また都市計画税はもともと目的税であり、都市計画税のある部分だけでも、使い方の優先順位を再検討すべきではないかと考えています。
東京大学大月教授:一つ一つの課題に対する取組みが進められてきましたが、密度が疎になっている状況でのまちづくり・むらづくりの支援には、点的にばらまくのではなく、総合化された一体的なパッケージが重要になります。内閣府と国交省が一体となって進めようとしているのかが気になっているところです。省庁の取組みを横串でまとめるような、いい方法は無いかと考えています。
内閣府野田氏:政府の骨格的な政策や、各自治体が計画をつくるところまでは、横串でまとめることはできてきていると思います。一方で個々の支援措置の横串はかなり難しいと考えられます。国の支援措置は、どうしても縦の関係で進められるところがあります。
東京都市大学室田教授:人間は慣れてくるところがあり、大半の地域は気がついたときには手遅れとなるのではないかという危惧があります。ある日突然ではなく、徐々に高齢化し、家が老朽化していくので、周りが空き家ばかりになっても、動きようがない。住民主体だけの地域再生は難しいと思います。行政が取組みにくいところではありますが、地域に対して何か条件をつけて、条件に合致したところに自治体から何かきっかけを与えるようなやり方があるかもしれません。自治体からお話をうかがっていると、住宅団地住民は、何十年経っても周辺地域からは新住民という扱いをされる傾向があり、行政が住宅団地に関与することの難しさの要因の1つのようです。しかし放置しておくと手遅れになりかねません。財源に関することでは、マンションですと管理費を住民から集めています。戸建て住宅団地で住民からお金を新たに集めることは難しいと思いますが、自分たちの土地財産の価格が下がる危機意識と結びついたお金の集め方と、その支援や補助の方策をつくれないかと考えています。地域再生の相乗効果による経済効果の視点から、交付金や補助金について工夫することが大切と考えております。
国交省佐藤氏:現状は、内閣府の地域再生に関する制度は、自治体が任意に計画を立て、利用したいものを利用するという制度となっています。一方で、政府がきっかけを与えて自治体に主体的に取組みを進めてもらう方策は重要と考えています。地元からの財源確保については、商業地のエリアマネジメントでは地域再生法での制度が既にあり、地域の魅力と収益性を高めるためにテナントからお金を集めることが行われていますが、住宅地のエリアマネジメントは現状では制度もなく模索段階です。一般には、商業地のような売上の増加もない中、税金のように強制的にお金を集めることは難しいと考えられます。また、商業地においても全ての地域でエリアマネジメントができているわけではありません。重要なことですが、今後の仕組みづくりの工夫が必要と考えられます。
東京大学樋野准教授:埼玉県日高市のこま武蔵台団地で活動を続けてまいりましたが、本日の説明の中で是非使いたいなと思った制度はハンズオン支援です。自治体や地元が縦割りの支援制度を使いこなすことは、なかなか難しいところがありますので、ハンズオン支援のような制度が活用できるといいなと思いました。こま武蔵台団地は戸建て住宅を中心とする住宅団地ですが、民間が所有しているショッピングセンターの活性化に使える制度があればいいなと考えています。自然発生的なCCRCについてですが、UR団地のCCRC化を提案したことがあります。しかし、日本ではミックスドコミュニティが望ましいとの感覚があり、海外のような高齢化率100%のCCRCにはならず、子育て支援の機能も必要となるようです。マンションでは管理状況の届け出制度が最近新設されましたが、戸建て住宅団地に関しても管理状況のリスト化と公表で、入居先の選択がされるようにならないかと考えています。
内閣府野田氏:ハンズオン支援については、選定した7自治体で試行錯誤しながら進めているところです。我々も、横串での支援など、勉強させていただきながら、どのような支援が可能かを考えていきたいと思います。
NPOげんきネット武蔵台柳沢氏:こま武蔵台団地では、先日の日曜日にショッピングセンター広場のリノベーションに関して、東京大学の学生の皆様から企画提案発表をしていただきました。多くの住民が関心を持って発表をうかがいました。こま武蔵台団地は開発から40数年経っており、住民は皆、団地のこれからに関心を持っていますが、同時に我々だけでこれからの道筋を見出すことは大変難しいと考えています。地域関係者で課題を話し合う協議会を早く立ち上げるべきだとの声もありますが、皆様の知見をいただきながら団地再生の進め方を考えていきたいところです。こま武蔵台団地は約2,200戸ほど住んでいますが、坂のまちでして、移動が課題になっています。今年度は国総研のご指導をいただき、春冬の2回で1カ月間ずつ、新たな移動サービス「グリスロ」の実証実験を行いました。また今年度はパーソナルモビリティ試乗も行いました。しかし、多くの住民が新たなモビリティの重要性を認識する一方で、歩道車道の段差など団地の構造がパーソナルモビリティにマッチしていないと感じました。地域の公平性の観点から、行政はこま武蔵台団地にだけ目を向けることができないこともうかがっています。こうした現状に対応するために、皆様から引き続きご指導いただきたいと考えております。
内閣府野田氏;坂が多いことや公共交通の問題については、各地で見られる課題で、モビリティに関する取組みが重要と考えております。