講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


西川祐子さんの話を伺って



 先ずは、フランス文学の研究者としてバルザックの翻訳を手掛ける一方で、ご自身「叙事詩」とおっしゃる大作「借家と持ち家の文学史」を著し、更には「ニュータウンのジェンダー変容」研究を主催するという西川さんの、研究者としての堂々たる生き方に強く刺激されました。すごい!
さて、今回も様々なことを学ばせて頂きましたが、特に印象深かった三つの言葉があります。一つは、「現代の個人とは、近代の家長のような家族を擁し、確固たる私有財産を築いた堂々たる個人ではなく、・・・弱い個人であることを踏まえたい」という言葉。二つ目は、「個人のライフスタイルは現在では、地域、国の政策だけではなく、世界の動向に直結している」という言葉。そして、いま一つは、「『文は人なり』にならって『すまいは人なり』と言うことができる人生を送った人は、これまでほとんどいなかったという事実をふまえる必要がありそう」という言葉。
ウーーン。ライフスタイルと住宅は現象としては関係し合ったとしても、やはり思考の対象としては直結しにくいものなのか。長年住宅をテーマにしながらも、これからは住宅ではなく、場としての「地域」と道具としての「部品」の二つに焦点を当てた研究をしたいなどとぼんやり思っていた私は、勝手な思い込みではありますが、若干確信を深めた次第です。それにしても、作品によって時代を批評するというスタンスとは無縁の住宅開発者や住宅研究者が、何を拠り所に活動を続けるかは、いよいよもって難問になってきました。やっぱり地球環境なんかに落ち着いてしまうのでしょうか?(松村



 まず歴史的検証の手続きの厳密さと鮮やかさ、パースペクティブの広がりに圧倒された。住まいモデルの2重構造・2重帰属モデルは、住居単体の建築形式にのみ注目しがちな建築分野の人間にとっては目から鱗である。さらに、現代の状況を冷静・批判的にみつつ、かつ変化をポジティブに捉えようとする若々しさ軽やかさにも圧倒された。ウェブの性格上、残念ながら割愛せざるを得なかったが、ライフスタイルに関する我々のつたない文章に対しても丁寧にコメントをいただいた。学問を志すもの・知性のあり方を教えられた気がする。
 とにかく裸の個人が析出されてしまったのである。これはたいへんな状況ではあるが大きな可能性の始まりでもある。地域についても他人の記憶を受け継ぐなど多様なアイデンティティのあり方も示唆していただいた。建築と環境をデザインするものにとってどのような住まい方の可能性があるかが問われているのである。(鈴木



 ここ2、3年のことだが、どこかに土地を買って自分で家を設計して住んでみたいという欲望が出てきた。現在住んでいる賃貸マンションはかなり快適で気に入ってはいるが、それ以上のものではない。但し、家を建てたいと思う直接の動機は何もない。40年近く生きてきたのに、貯蓄もないし、妻や子どももいないし、地位も名声も野望もない。さらに、定住してみたいマチやムラも特に今はない。動機はないが、生きている間にとにかく家の一軒ぐらい建てたくなったのだ。何故こんな気持ちになったのだろうか?建築を学びその関係の仕事に就いていることは理由の一つにはある。でもそれだけではない。前置きが長くなったが、今回の西川さんの話を伺っていて、この謎が少し解けた様に思える。
 そもそも家というハードは、家族というソフトと一体であったのだ。その家族も可能であれば父や母が欠損していない方がいい。独身などは問題外である。この家と家族のワンセットを言葉にすると「家庭」になるという。戦後の日本は国をあげてまさにこの「家庭」を大量生産することに邁進した。そして、それはある程度成功したといえる。もちろん私の中にも幼少の頃にこの「家庭」という幸福のモデルが刷り込まれている。そして、ある時代までそれは有効であった。しかし、近年はどうであろう。家庭崩壊といわれるように、家族はバラバラになり個人になった。家もバラバラになりワンルーム化が進行する。西川さんの話でハッとさせられたのは、これら一連の変化が自然の成り行きなんかではなく、筋書き通りであったということだ。つまり我々は何ものかにずうっと踊らされてきたのである。それはともかく、我々が家を建てる際にもはや「家庭」という概念にとらわれなくてもよくなった。家族構成がめちゃくちゃでも家を建ててよい。この様な発想が健全かどうかは分からない。でも既に時代はその方向に向かいつつある。この様な訳で、独り者の私が家を建てたくなっても何の不思議もない。もちろん国でもマチでも家族でもなく、個人単位でしか語れなくなった私たちのライフスタイルに対して、本当に豊かになったと感じている訳ではない。ただいつの時代でも自分が生きていることを示す社会的アクションは必要だと思う。家を建てるということはきっと立派な社会的アクションになるはずだ。自分が変わるためにも、また、マチや国が変わっていくためにも。(西田


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