講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


5. 訪問販売からの出発
久永:  カフェを開店したのは2006年2月です。いつの間にか16年程経ちましたが、こんなに続くと思っていた人は誰もいなかったと思います。私自身も「明日潰れててもいい」くらいの覚悟でやっていました。外装改修や構造補強は南阿蘇村が行ってくれましたが、内装工事などは私の費用で行う契約でした。蕎麦屋の師匠からは「借金だけはするな」とアドバイスされたので、まずはケーキの訪問販売から始めました。要するに行商ですが、そうしたスタイルなら叔父から融通してもらえる厨房機器だけで始められますし、外装などを改修している間にカフェの内装費を貯めてしまう目論見でした。
実は、師匠もそうしたスタイルで南阿蘇に根付いていったんですよ。もともと何億円も売り上げるような製麺業を佐賀で営んでいたんです。ですがバブル景気に乗ってバンバン事業を広げた結果、その会社を潰してしまった。南阿蘇で蕎麦屋を始めてからは、蕎麦打ち一筋で行商しながら地域との関係を一から構築していった方なんです。最初の頃はそういう師匠と一緒に回ったので、簡単にケーキを買ってもらえたんですね。でも、一か月後くらいに一人で行くようになると、10件行ってやっと1件売れるような状態でした。師匠に報告すると「良かったな、そんなに売れたのか。俺の最初の頃は100件行って1件だったぞ」と励まされましたが、内心は1年も持たないんじゃないかと思っていたそうです。
松村:  久永屋を開店できたのは、当時の総務課長や蕎麦屋の師匠の力が大きかったようですね。
久永:  今考えると、行商だけをやっていた半年間は良い準備期間になりました。駅舎の割れ窓などが直るにつれて、近所の方々からの信頼も徐々に大きくなっていったように感じます。カフェを開店してからは、店を手伝って下さる方も少しずつ現れましたし、中学校で処分する机・椅子がもらえることを中学生が教えてくれたりもしました。平日はカフェを営業していませんが、プラットフォームに設けた客席が寄り合いに使われたりしていて、ここが近所の方々の憩いの場であることを再認識しています。




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