故大野勝彦さんの「住宅=町づくりの方法」を思い出しました
今回で、「ライフスタイルとすまい・まち」に二度目のご登場とあいなりました吉原勝己さん。前回ご登場頂いた時にお聞きしていたと記憶しています。吉原さんが親の代から引き継いだ複数の「空間資源」を「ビンテージ・ビル」として再生させ経営しておられる福岡市から、少々離れた久留米市で、「古い団地を買いました。面白い実験をしてみようと思っているんですよ。できるだけお金をかけずにコミュニティの力で家賃を上げられるようにするような実験です」という謎のお話は。
そして、ついにこの謎の団地「コーポ江戸屋敷」を訪ねる機会に恵まれました。ただ、謎が解けたというよりは、一層謎が深まったという感じです。久留米にはエリア・マネジメントを中心に活躍する「半田ブラザーズ」がおられるという話は吉原さんから何度かお聞きしていましたが、何故か「コーポ江戸屋敷」でその半田兄弟が待っていて下さいました。「コミュニティ・デザイナー」として関わられているとのこと。また、1室だけ案内された部屋は、ここの外回りを中心に工事等に関わっていらっしゃる造園業の亀崎さんが中心になっている異業種集合型職人チームのシェア・オフィスだというのですから、またまた謎が深まりました。民間の古い団地に「コミュニティ・デザイナー」がいて、団地の一角には建築系の職人さんたちのシェア・オフィスがあるというのですから、「謎」と言って良いほどに、今までに聞いたことも見たこともないことばかりでした。しかも、この謎の団地経営が軌道に乗ってますます面白いことになってきていると、吉原さんが微笑むのですから。
こういうのを時代の先駆けと言うのでしょう。デザインとある種のメディア機能を持った人がいて、しかも町に住む建築系の職人さんたちが自ら暮らしながらそれを支えるという「地域」像。これは、私の師匠だった故・大野勝彦さんが、1980年代初頭からそのメディア「群居」でずっと連載していた「住宅=町づくりの方法」の核心にあった「地域」の理想の姿です。(参考:大野勝彦著「地域の住宅工房ネットワーク−住まいから町へ・町から住まいへ」、彰国社、1988年)
懐かしいけれど、未だ見たことのなかった「地域」の姿。その原型のようなものを、今回は21世紀の《大家精神》の体現者、吉原さんと久留米のお仲間たちに見せて頂いて、本当に嬉しい思いが致しました。
(松村秀一)
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