住民主体の団地再生に向けて
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授 大月 敏雄
郊外住宅団地の再生には、地域にお住いの方々が地域の未来に向けて知恵と力を出し合うことが求められています。八王子市のめじろ台団地では、まちづくり協議会・まちづくり憲章・ワーキンググループなどの活動で、人生の先輩方が元気に住み続けられるまちづくりや、その息子・娘世帯が戻ってきたくなるまち、新しい人が参画するまちづくりを進めています。まちの活性化の連鎖の最初のボタンを押すことや、1人1人の思いを実現するまちづくりのプロセスが大切と考えられます。めじろ台団地におけるその取組についてご紹介します。
(1) 住宅地のマネジメント
私は東京大学で建築学を教えておりますが、最近学生に教えていることは、新しいものがあまり建たない時代に、すでにあるまちを未来に向けてより良くしていくということです。DXを含めて小さな技術から大きな技術まで、ハードからソフトまで、あらゆるものを総動員して、未来をデザインしていくことが求められていると考えています。
一般財団法人住宅生産振興財団では「住まいのまちなみコンクール」を20年近く続けており、私も関わってまいりました。これまでおよそ100の団地を表彰していますが、私は学生とその数倍の団地におけるインタビューを実施しており、住宅団地で今何が起こっているかについて把握してまいりました。
自治会・町内会の会長さんや役員さんからよく伺う悩みは、居住者組織をどう運営したらいいのか、他の組織の活動とどう関連づけるのか、情報共有をどうしたらいいのか、合意形成をどう行うか、あまり関心を持たない居住者もいる中で、居住者をどう振り向かせるかといったことです。そして50の団地・団体で伺った知恵を、私と学生で「住宅地のマネジメント ーまちネットから学ぶまちづくりの知恵ー」(住宅生産振興財団監修、建築資料研究社) という書籍にまとめました。
この書籍でまとめた知恵の中には、例えば、公民館の一室に、公民館長・自治会長・マンション管理組合理事長・青少年育成に関わる方々など各種組織の長の机を並べて、電話・ファックス・コピーを共同使用し、居住者や行政各部署からの相談や連絡などがあった時にすぐに情報交換・共有して、応対できるようにすることなどがあります。そうするとここから、地域に関わる情報が共有されていき、この相談ごとについてはこの人に声をかけてみるといいらしいといった知恵が共有されます。
また、戸建て住宅団地の周りにアパートやマンションなどが建っていることがあります。ある事例では、売りに出された賃貸アパートを戸建て住宅の不動産屋さんが買い取り、高齢化が進む戸建て住宅の活性化を図るために、中学生のいる家族への家賃割引や、店舗に入る方には3か月賃料無料、セルフリノベーションを可とするなど、公的機関が行うようなことをやっています。住宅団地の課題を団地内だけで解くのではなく、団地周辺の地域資源とのやり取りで住宅団地を蘇らせる取組と考えられます。
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