これが「普通」になってほしい
多摩平団地。日本住宅公団初期の大規模開発である。JR豊田駅の近くから見えるテラスハウスや中層住棟が立ち並ぶ風景は、とても印象に残っている。50年が経ち多くは建て替えられ、その風景は記憶を頼りに懐かしむものとなった。
その多摩平団地にわずか数棟だけかつての中層住棟が残っている。それが「多摩むすびテラス」である。1年程前には周辺にも10棟を超えるオリジナル建物が残っていたが、あっという間に空き地に変わり、今はこの5棟だけになった。駅から延びる幹線道路に面さず、少々奥まったところにあったので残ったのだと思う。
まだ周辺建物も残っていた頃に、ここでの団地再生を学生の設計課題にしたことがある。学生たちは一様に「こんなところがあったのですね」と、その空間ののびやかさに感激していた。もちろん住戸内部には手を入れる必要があったが、既存建物をとり壊すことを発想した学生は一人もいなかった。大きく育った木々。それを囲むように配置されたつつましやかな住棟。そして、ゆったりとした隣棟間隔。どれもが今日の開発では実現できないと感じさせるものだった。地域の資源としてこの空間を有効に使い再生させること。それが彼らの課題となった。
多摩むすびテラスは、この時の学生の設計課題とまさしく同じテーマを実践的に追求した意欲的な試みである。元の多摩平団地が持っていたのびやかさを十分にいかしたライフスタイルが、3事業者それぞれの創意工夫で現実のものになっている。ここに新しく住み始めた人々と、周辺地域の人々の交流も始まっているらしい。とても挑戦的なプロジェクトであるだけに多くの人に住んでみてほしい。
それにしても、そろそろこんな既存建物の活かし方が「普通」になってもいい時期だと思うのだが。
(松村秀一)
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