プロデューサーから一言:鈴木 毅


近畿大学建築学部 教授


人の「居方」(いかた)という視点から、建築・都市環境とそのデザインについて研究している。たとえば「思い思い」「居合わせる」「たたずむ」はそれぞれ居方のタイプであり、人がある場所に居る時の独特の状況を指している。一言でいえば「居方」は、ある場所にどう居られるかという切り口から、都市・居住環境の質や目標を語るための概念だと自分では考えている。

背景にあるのは、日本の都市は個々の建築や施設は立派だが「場所」としては貧しいという問題意識であり、ほぼ10年前「街は綺麗になったが居場所は増えていない」と気づいたのが具体的なきっかけである。その後「居場所」が社会的なキーワードとなり、状況は若干変わって来ているが、まだまだ諸外国に比べて日本の街には、様々な属性の個人が思い思いに居られる場所は圧倒的に少ない。

これまで主として都市の公共空間を対象にして調査・考察してきたが、実は住宅についても同様な問題がある。たとえば「家族が思い思いに居られるリビング」はどれくらいあるのだろうか。

このように、個人が住宅、地域、都市空間の中の個々の場所でどのような居方をしているかは、ある意味で生活そのものであり、その点で居方はライフスタイルと密接に関わっている。松村さんからの話を断るわけにはいかなかった。

さて気が付いてみると「ライフスタイルに対応した住宅」と言い方が普通にされている。住宅の基本的な条件が満足されたから、次は、ポストnLDKで、益々多様化する生活への対応が目標になったということなのだろう。

もちろん、生活と建築が適合しないのは大問題であるが、「ライフスタイルに対応」という言い方にはやや違和感をもつ。次々に現れる個々の多様な生活に対して、それ専用の居住形式の建築をその都度つくることは本当に妥当なのだろうか。どうやら、ライフスタイルを考えることをきっかけに、建築計画の根本的な方法論についても考えざるをえなくなりそうで密かに緊張している。

一方、多様なライフスタイル、住まい方に出会うのは楽しみである。インターネットで少し検索しただけで、ごく普通の人々が様々な興味深い住居形式を実践しているのを垣間みることができる。こうした現実の中で、計画・デザインする側は何を提供すべきなのか、謙虚に考えてみたい。


  松村 秀一 西田 徹(〜2015年度)


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