プロデューサーから一言:松村 秀一


東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授


手ごわいけど「ライフスタイル」が気になってきた

イギリス3戸、ドイツ4戸、フランス5戸、アメリカ6戸、そして日本10戸。何の数字だかおわかりになるだろうか。人口千人あたりの年間新築住宅戸数である。巷では「新築住宅の建設量は随分減った」という声が聞こえるが、日本はまだまだ相当な勢いで住宅を建て続けているという訳だ。ただ、この勢いはもう続かないだろうというのが多くの関係者に共通する見解である。既存住宅の数が世帯数を遥かに上回り、空家率も15%近くになりつつある。しかもその8割以上がちょっとした修繕で十分に居住の用に耐えるものだという。何もこれまでのような勢いで新築工事を続けなくても、人々が生活するための床は十分にあるのだ。

研究者としての私は、住宅を含む建築の構法や生産の問題を主題としてきたのだが、最近は既存住宅の再生や、空きオフィスの住宅へのコンバージョン(転用)による都心居住の実現といった事柄、つまりは既存ストックのより豊かな活用方法について研究している。ここで大変気になってきたのがライフスタイルというテーマである。正直に言って、住宅をどう造るかということを主題にしている限り、人々のライフスタイルをそう意識することはなかった。ところが、既存の建築空間を人々の居住の場として再生したり、転用したりということを考え始めると、どのような人々がどこでどんなふうに暮らすのかが気になって仕方なくなってくる。日本に十分にある床をどう使いこなすかという問い自体、人々のライフスタイルを問うているようなものだから当然と言えば当然である。

ただ、ライフスタイルというテーマ自体、建築や住宅のあり方と関係付けられるのだろうか。仮に今日のライフスタイルが手に取るようにわかるようになったとして、そのことで建築や住宅のあり方を語ることができるのだろうか。例えば、住宅メーカーやマンションディベロッパーは、商品開発に当たってライフスタイル、ライフスタイルと言っているが、そもそもあるライフスタイルとある空間構成がピタッと来たり、ある住宅のスタイルがライフスタイルを大きく変えたりというようなことがあるのだろうか。建築を考える者にとってライフスタイルというテーマはなかなかに手ごわい。

今回ひょんなことからライフスタイル研究会を始めることになったが、これは一種の怖いもの見たさ。その手ごわさが身にしみてわかればしめたものと思っている。


  鈴木 毅 西田 徹(〜2015年度)


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