講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


これからの住宅に求められること

鈴木 こういう時代に何を準備すればよいかという時、「住宅はシェルターであればよい」という話もありましたが、黒野さんのお話にあった「昔の住宅には少なくとも3つの空間があった」という話は示唆的で踏まえておく必要があると思います。それから現在の特に超高層などでは袋小路的な共用空間が出来てしまいますが、アクセスしにくいものだと用途が制限されるので。お店のようにさっと入れるような仕掛けを作るのが良いのではないかと感じています。最近は、住宅で週に一回だけ子供のための喫茶店を開いているような試みも結構あるようです。そんなSOHOとはまた違った開かれた空間の可能性もあると思います。
松村 難しい点は、例えば大きな団地の集会場などは使われ方がぼんやりしていると思いますが。
鈴木 計画された街に生まれた交流施設として千里ニュータウン東町の事例を紹介します。「歩いて暮らせる街づくり」事業の展開として阪大の同僚の吉村先生らも参加されて「街角広場」という場がNPO的に作られました。千里中央には大きな商業ゾーンができ華やいでいますが、近隣センターには空き店舗が出てくる状況です。そのスペースを活用して、「街角広場」と名付け皆が入れるカフェ的な場になっています。例えば、夫が定年を迎えた奥さんが世間話の場として活用したり、子供が遊びに来ることもあります。展示も企画され、学生が設計課題のプレゼンテーションをさせてもらったりもしました。内装は手作り的で、ふらっと訪れることのできる空間になっています。割とルーズな使われ方をしていて、非常に示唆に富む例だと思います。集会室のようなオフィシャルな場ではないですが、いまやコミュニティにとって大きな役割を果たしています。
一般に「街角」というのは施設と違って造ろうと思ってもなかなかつくれないものですが、ここはちゃんと街角になっています。ニュータウンには働く場や産業が少ないですが、自分で何かやりたい人はいるので、こういった例が参考になると思います。
松村 木賃アパートで誰でも入れるギャラリーを開いているという例もありますね。
鈴木 「接客」とは違ったコミュニケーションの機能が、現代の空間には足りないと思います。
松村 場があっても利用されるかどうか、というのはまた別の問題ですね。例えば、あるマンションの10階にちょっとした眺めの良い公共の空間があるのですが、それが使われているのかどうかは疑問に思います。
黒野 昔の町屋には「土間」という空間がありましたが、ミセの間では座って話をするという滞留行為が可能であったと思います。現在の小規模な店舗ではそういったことが大切だと思います。
松村 現在では接骨院や病院の待合室などが、高齢者の交流の場になっているらしいですね。病気でない人もそういった場に集まってくるという話も聞いたことがあります。
鈴木 京都には個人病院がたくさんありますが、町屋を改築した医院に入ると花が活けてあったりしてそれがきっかけに会話が生まれたりします。

鈴木 ライフスタイルの議論はえてして「これからどうなる」というものになりがちですが、専門家として「どう提供するか」ということを考えた時に、どのように準備するのかということが大切になってきますね。多様なものを準備するだけではダメだと思います。黒野さんのおっしゃるようにモノのもつ力を見つめなおすことも大切ですね。
黒野 「街角広場」を見て色々な演出を可能にするためのモノがあると感じました。例えば床が平らなので椅子をたくさん置いたり、広く使うことが可能になりますよね。
松村 今回は黒野さんに参加して頂いて、現在までに進めてきた調査やインタビューなどを振り返りながら、ライフスタイルについての議論をしてきました。みなさんどうもありがとうございました。


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