講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』



松村 今までライフスタイルは提案するものであったが、住宅業界は多様化するライフスタイルにどのような提案をすればよいのか悩んでいるという現状があります。例えば、雨風をしのぐための「シェルター」を供給するだけでよいのではないか、という考えもあります。私が現在行っている研究で、都心のオフィスビルを住宅に改修する「コンバージョン」というものがありますが、都心に住む場合は間取りではなく「○○」という場所に住んでいること自体の意味がより重要になってきていると感じています。
黒野 コンバージョンされたものにもライフスタイルがあるのではないでしょうか。例えばニューヨークのSOHOなどのように、倉庫をロフトに改修して最新の設備にした上で都心の利便性の高い場所に住む、ということがうけていると思いますが。
松村 コンバージョンして供給することまでがライフスタイルへの対応で、どのような住まい方があるかということはやってみないとわからないことであると思っているんです。
黒野 ライフスタイルに関する研究ということで個人的な希望ですが、汐留などの超高層の問題に関しての発言が住宅の研究者からなされていませんが、経済原則だけで建ってしまうようなものに対して、住環境としての良し悪しに関する評価をしていただきたいと思います。
松村 私が学生の頃は「住宅は接地型である」という授業を受けた記憶がある。しかし、現在では無造作に超高層が建っていることを不思議に感じています。
我々の視点としては、ヘビーデューティーな環境で暮らすことは良くないのではないか、ということがあります。例えば修繕積立金や管理費も相当な額だし、停電した場合エレベーターが使えないこともありうることです。普通の集合住宅と比べると、超高層住宅は設備依存型にならざるを得ないので様々な問題が発生する、という切り口です。
黒野 ライフスタイルといえば、ということですが、昨年に陣内秀信さんが「地中海都市のライフスタイル」という番組をなさっていましたね。そこで紹介されていたような人が集まるための空間が用意されている場で超高層が実現するのと、日本での超高層は性格が異なると思います。
松村 最近聞いた話では、日本海側の東北地方で駅前にたくさんマンションが建っているらしいですね。それは、高齢化した農家の人々が便利な駅前にマンションを購入して、田畑にはそこから通う、ということがあるそうです。雪の問題が大きいそうですが、新潟ではそういったことは起きていますか。
黒野 中心部から離れた駅では幾つか見かけたことがあります。
松村 雪下ろしが大変になった高齢者の方にとっては、すごく良いものですね。しかし、それでよいのだろうか、という考えも一方であります。
黒野 私個人からすれば、研究対象としての農村に関心があり好きでもありますので、そういったものが残ってくれるなら、例え駅前に移住しても良いだろうと思います。ただ、もともと農村の建物が出来てきた理由が違いますので、徐々になくなってしまうのかという危惧もあります。
西田 砺波の散居村のことをテレビで見たことがありますが、その住人に対するインタビューの中で「隣との距離が離れていて住みやすい」という声がありました。プライバシーに干渉されないということですが、その距離感は都会では得られないもので、都会に出て行った若者も結局は戻ってきている、という話でした。
黒野 住んでいる人は本当にそう思っているのではないでしょうか。調査をしていて話をしていると、同様の体験談を聞いたことがあります。しかし散居村には現実に、道路を整備して東京の郊外と変わらないような風景がありますが、それでもそのように感じているのは不思議に思います。
松村 新潟の学生も同じようなことを言います。東京に就職したとしても新潟に戻りたいらしいです。日常的な辛さがあるにもかかわらず、魅力を感じているようです。田舎は住みやすいのではないでしょうか。自動車さえ維持するお金があれば、東京での暮らしよりもストレスを感じないし楽ではありますね。個人的には、中途半端な郊外が衰退していき、田舎が残っていくのではないかと思います。


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