思わぬところにビジネスチャンスがあるんですね
もう10年近く前になるだろうか。東京都が居住者を含むマンション関係者向けに開催したシンポジウムのパネル同士として、初めて荒さんにお会いした。今回の話からすれば、まだHITOTOWAという会社を立ち上げて間もない頃だったようだ。そのシンポジウムでは、荒さんが、自らの目指す仕事を「ネイバーフッド・マネジメント」という言葉で表現していたことがとても印象に残った。「エリア・マネジメント」と比べると対象とする空間の広がりがよりコンパクトで、「コミュニティ・マネジメント」と比べると対象とする空間のイメージがはっきりしている。とても良い言葉の選択だと思った。ただ、「エリア・マネジメント」でも、なかなかそれだけを業務にして成立している企業を思い浮かべることが難しい時代だった。だから、それよりも対象とする空間がコンパクトになった「ネイバーフッド・マネジメント」が新企業の主要業務になり得るのか、他人事ながら少々心配だった。
しかし、今回改めて、ビジネスの経験もセンスもない私のちょっとした心配など無意味であることを知ることになった。荒さんのHITOTOWAは開業10年を迎え、組織の規模も事業の規模も成長していた。
かつてのひばりが丘団地でのこれまでの活動の話を伺い、更にその成果としての実空間を見せて頂き、「ネイバ―フッド(隣近所)」という構えが適切だったのだと感じた。典型的なのは荒さん自身とここの関係。荒さんは結婚パーティをここで開き、このまさにご近所にお住まいだ。「エリア」というとどこかよそよそしいが、「ネイバーフッド」には人と人の関係が含意されていて、その隣近所的な人と人の関係が、使われなくなっていた2階建てのテラスハウスの建物に全く新しい空間的な価値を付与したのだ。そこでは関係が関係を生むという、人と人の関係らしい増殖性が良い役割を演じている。「ネイバーフッド・マネジメント」を標榜した時の荒さんが、このことまで織り込み済みだったのだとすると全くの脱帽だ。
こういうビジネス・センスのある人が、明らかに社会が求めている何某かの機能をソーシャル・ビジネス化する。荒さんのような人がどんどん出てきて活躍する未来がとても楽しみになる取材だった。
(松村秀一)
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