講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


10.まとめ


まちの新しい文化が生まれる場としての本屋さん

 今回の石井さんのお話で特に印象に残ったのは二つ。一つ目はブックカフェを始めたいと思って、先端を行くアメリカ西海岸の有名店をことごとく見て回ったというお話。新しいライフスタイルが気になったり、それを実践してみたいと思ったら、地球規模で軽々と行っちゃうという乗りに、現代らしさとその可能性を感じます。そして、そういう西海岸の有名店はすべて築50年以上の建物の中にあるという事実を発見し、自分のふるさと、うきはで開業することにしたという経緯も興味深いものでした。まちの中の空き家や空きビルの利用がごく普通の態度になりつつあること、時代の変化の風が確実に吹き続けていることを再認識させられました。

 二つ目は、まちなみ保存の伝建地区からは新しい文化は生まれないという石井説。これはあまり考えたことがありませんでしたが、先ずそうだろうなと思います。継続性と変化や変革。これは大学の研究者にも当てはまるような普遍的バランス問題です。あまりに過去を顧みずに破壊と建設を繰り返すことへの反省や危機感から出てきた歴史的建物や街並みの保存ではありますが、まちの全体がそうそう建て替わらず、その中での人々の暮らしが変わっていく今日的状況の中では、何かもっと中間的な構え方もあって良いのだろうと思わせられる石井説でした。

 私たちのこの頁のタイトル「ライフスタイルと住まい・まち」に誠に相応しい刺激を頂きました。

(松村秀一)



本屋さんが生み出す「街角」と「ネットワーク」

 九州大学菊地研の前川遥奈さんの論文を読んで、いつか行きたいと思っていたMINOU BOOKS & CAFEを訪れることができた。瓦と白い壁の伝建地区に建つ元は魚屋だったビル。店の前にはベンチが置かれ、道を挟んだ向かいの建物にかけられた黒板の前で学校帰りの子ども達が集まっている。中の様子がよく見えるオープンな表情とあわせ、この店は新しい「街角」を生み出している。

 店内は、白と木の心地よいスペースで、書店としては大きくないのだが本棚には欲しい本ばかり並んでいて困った。本を大切に扱ってもらうために購入前の本をカフェゾーンに持ち込むことはできない(カフェで読んでもらう雑誌はちゃんと別に用意されている)。真ん中の棚には、つい先日京都で初めて開催された「紙博」でこういう会社があるんだと感心した手紙舎のグッズが展示販売されていた。

「「これって町おこしでしょ」とカテゴライズされそうじゃないですか」
「都会と田舎の間で文化や教養の格差がものすごく広がっている」
「どこにでもあるようで、ここにしかない暮らしの本屋」
店主の石井さんの言葉からは明確な価値観、問題意識、ポリシーが感じられる。
 書店が激減する中で、MINOU BOOKS & CAFÉのような、志のある新しい地域の書店が生まれていることは本当に心強い。

 周囲の先輩的な店とのゆるやかな繋がりの話も興味深かった。最近色々な事例を訪問して感じるのは、こういった新しいタイプの地域の店や場所は、決して孤立しておらず、価値観を共有する人々や店とネットワークを造っている場合が多い。彼らは商店会など既存の組織とは別のレイヤーを造り、街の印象を変えているように見える。既存の地域組織で合意形成しなくても(しないからこそ)、地域は変えていけるといったら言い過ぎだろうか。

(鈴木毅)



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