講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


6.伝統的構法と現代的な環境制御
山田:  ブログなどで里山長屋暮らしの情報発信をしています。工事段階からインターネットで呼びかけてワークショップを開いたのもその一環です。土壁の竹木舞を編む作業や壁塗り作業を延べ300人の学生に手伝ってもらいました。日本大学の学生さんや、ハビタット・フォ−・ヒューマニティ・ジャパンという住居建設支援を国際的に行っているNGOの学生ボランティアチームも参加してくれました。

現在は大量生産の家づくりが主流ですが、これは伝統的な住宅の成り立ちが知られていないことも一因と思っています。ワークショップを開いたのにはこうした問題意識もあります。化石燃料の使用を減らす意味でも伝統的な構法をベースに現代的な温熱環境を整える仕組みを組み込むのが有効だと考えています。例えば土壁だけだと寒いですけど、今は色々な断熱材も利用できますよね。
西田:  冬を越してみた実感はいかがですか。
山田:  竣工したのが2011年の2月なので、ここで冬を過ごしたのは1.5回といったところです。冬季の外気は寒い時だと夜にマイナス5℃くらいまで下りますが、朝起きても室内温度は15℃くらいで、特に問題なく過ごせました。屋根には太陽の集熱装置を搭載していて、冬の間は28℃以上になったら暖かい空気を室内に取り込むよう設定しています。暖房設備は住戸によって異なりますが、ペレットか薪のストーブを使っています。

夏季は室内の土壁が蓄冷効果を発揮しています。この辺りは夜間の外気温が20℃くらいまで下がるので、網戸で風を通していると朝の室温は24℃くらいになります。すると室内の熱容量が大きいので、日中の気温が35℃になっても室内は27℃ほどに保たれます。エアコンも全く使っていません。夏の間は屋根面の暑い空気はファンで直接外気に排出しています。
西田:  戸境壁は結構な厚さがあるようですが、壁の遮音性はいかがですか。
山田:  壁の透過音を感じることはないですね。外から音が回ってきますけれど。ちなみに戸境壁は4寸角の柱に石膏ボード二重張りですから、下地だけで厚さ168mmです。土塗り仕上げを含めれば200mm以上になります。界壁の規定通りに小屋裏に達するよう設け、遮音性を高めるため軸組の間には羊毛の断熱材を入れています。
鈴木:  土壁の蓄冷性能は、伝統的な構法で作れば自然に発揮されるものですか。
山田:  現代的な断熱との組み合わせで上手くいったと思っています。庇で日射による外部壁面蓄熱を抑えたり室内の熱容量を確保しながら、きちんと断熱材を設けるバランスが重要だと思います。

こうした集合形式のエネルギー節約効果を把握したいと考え、工学院大学の中島先生と協力してエネルギー消費など(電気、ガス、水道)を計測しています。住人がコモンハウスで過ごす時間が増えれば全体のエネルギー消費は減るはずですから。と言っても皆さん意識が高く電気代は月々3000円程度ですので、目立った効果はまだあまり見られないようです。



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