講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


4.住居兼オフィスから広がるプロジェクト
松村:  「借家生活」をまとめた冊子を見ると「じゃあどんな生活がいいの」と問いかけていますが、駒井さんのような活動はちょっと聞いたことがないですよね。建築の形とかそういう問題じゃなくて生身の生活だから、真似しようにもできないでしょうしね。
駒井:  昔のコマーシャルで「じゃあどんな生活がいいの?−通販生活」というキャッチコピーがあったんですよ。そのパロディです。出版元は「TOUTOU(とうとう)出版」と名付けました。一応TOTO出版にも贈呈しましたがお咎めは来ていません。
鈴木:  クライアントから、こういうふうにしたいって頼まれたりはしないんですか?
駒井:  借家住まいのクライアントはゼロではないですし、ユニットバスのメーカー名の問い合わせもたまにあります。でもそれよりも事務所へやって来て「仕事場と子供部屋のこの感じがいい」とか「自分の部屋にそれぞれ自分の階段で降りていく感じがいい」という依頼の方が多いですね。この家に対する注目の仕方によって様々な方向に仕事が発展して行きます。
松村:  正直言うとどうやって収入を得ているのか不思議でしたが…。
駒井:  事務所を始めた当時は、引っ越しているだけでしたし、融資頼みでした。やっていくにはそれしかないので銀行に対するプレゼン能力は訓練されていきましたね。仕事も人工クラゲの浮遊代理店から入るくらいでした。四畳半一間の下宿を改造してお店を始めるというので10万円で仕事を頼まれたんです。手早くまとめないと経費にもならないぞと思っていたら、それが工事費だった(笑い)。
工事業者には頼めませんから、京都市立芸術大学の学生を集めまして、芸大に落ちているものを拾ってカウンター材料にしたり、発砲スチロールを電熱線で加工してうねった壁を作ったりしました。もっとも今では新社屋を建てて、全世界に向けて発信している成長企業です。これまでに4件の設計を依頼され移転を繰り返していますが、規模が10倍ずつ大きくなっています。
松村:  建売住宅も手掛けていましたよね?
駒井:  妹夫婦が建売住宅を買うというので付き添っていったんです。すると不動産屋さんが言うんですね。「間取りを5つの中から選べて、キッチン扉やフローリングも選べる自由設計です」って。
でもそんなの全然自由設計になっていない。大工さんに流れていくお金さえ確保したら変更してもよいか不動産屋さんに聞いたところ、大工さんの了解が得られれば構わないという。大工さんに説明したらOKが出て、本当の自由になっちゃった。つまり仕様は全部受け入れて、プランニングと仕様の使いどころを変えていった。外壁は隣の家と一緒でキッチンも一番安いものを選んでいます。でも居室の仕上げはシナベニヤ張りです。これは押し入れの仕様だから一向に構わないわけです。お金の配分さえ変えればかなり自由設計になるんですね。一見すると建売住宅ですが、中庭のあるコートハウスになりました。
鈴木:  建て売りシステムの中で設計したわけですね。
駒井:  その模型を不動産屋さんの店頭に置かせてもらったんです。妹の家は確認申請の業務料だけ頂きましたが、模型の設計内容で契約が決まったら10万円プラス、その次はさらに10万円プラスという約束で置かせてもらった。注文があるわけないと思っていたようですが、反応するお客さんが意外と現れたんですね。すると「うちは自由設計ですから」なんて具合に不動産屋さんが上手いこと説明してくれるわけです。結局5件ほど建てました。



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