講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


3.家業としての借家生活
松村:  引っ越し先を探すときは、これらの巨大家具がちゃんと入るか考えているわけですか?
駒井:  考えないわけじゃありませんが、ざっくりとです。こうした家具が増えていくと、家に求めるものが少なくなっていくんですよ。広さだけあればいい。あとはインフラを引ければなんとかなります。キッチンも持っているし、お風呂も持っている。これらのパーツがあればがらんとした倉庫で構わないわけです。
松村:  でも通常の引っ越しのように、荷物を持ち込んだらすぐ日常生活が営めるわけじゃないですよね。しかも家族が増えながらでしょ。
駒井:  「奥さんが偉い」とはよく言われます(笑い)。実際、妻にはアウトドア生活でもなんとかしちゃうような力があります。子供たちもタフです。そういう風に育てていることも確かですが、小学校対抗の駅伝大会の選手に選ばれたりしますし、自主的に一年間の山村留学に行きたいと言い出したりします。こういう環境で育っているせいか集中力の高まり方が早い。他の3人は遊んでいても自分はやらなあかんときがある。すると瞬間的に周りを遮断して本を読み始めたりします。こうした子供たちと奥さんがいるので、家族全体の力でやれば僕の力以上のものを外に発信できるんじゃないかと考えています。
鈴木:  1階で子供アトリエを開いていますよね。
駒井:  普段は仕事の打ち合わせに使っていますが、せっかく街なかに事務所を構えたんだから気軽に人が集まれるようにしたいんです。子供アトリエもその一環です。月に2回ほど美術の先生に来てもらって、子供たちと一緒に作品を作っています。絵を描いたり工作をしたりしています。
かつては一坪ギャラリーとして自分の計画を飾ったり、浮遊代理店というベンチャー企業の仮店舗みたいにしていたこともありました。イベントとしては2畳の茶室みたいなものを作ってお茶会をやったこともありました。夏の時期でしたがそこの畳が一番涼しい。その年の夏はみんな1階に降りて寝ていました。それから大人向けの木工ワークショップをやった時もあります。
佐藤:  お話の中に出てきた「浮遊代理店」というのは何ですか?
駒井:  1999年にソニーがAIBOを出しましたよね。その頃は電機メーカー各社がそうした新規事業に取り組んでいたそうです。ある会社は人工の筋肉の開発をしていて、その担当がそこから独立した後に水中でヒラヒラ舞う人工クラゲを開発したんです。浮遊代理店はその担当者がスピンオフさせた会社です。ヒルサイドテラスの展覧会にいらっしゃって「借家生活というのは私の人生のテーマである浮遊と深い関係がありますね」と話しかけられたのがつきあいの始まりです(一同爆笑)。
松村:  言葉は変だけど、要するに気楽な感じですね。
駒井:  今でも「駒井さんちあそこで何してるの?」と不思議がられているようです。夜は遅くまで電気が付いているし、オープンデスクの学生が楽しそうにご飯を食べていたりする。スライドをバーンと映しているときもありますしね。



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