講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


5.能登半島地震の影響
鈴木:  ところで、このお住まいは大正末期ごろに建てられたそうですが、増改築はされているのですか。
大崎:  風呂場や台所を直したくらいでしょうか。あとは地震をきっかけに、ショールームを作りました。確かに住まい勝手は悪いかもしれません。一日に1万歩も歩くことがある。先代は無線設備を取り付けて座敷から指示をしていたくらいです(笑い)。私も歳をとったら、裏に小さな部屋を作ってそこに住みたいですね。
鈴木:  このような伝統的な住宅は輪島のあちらこちらにあるのでしょうか。
大崎:  少なくなってしまいました。特に職人の作業場として、イキイキと使っているところは減りましたね。塗師屋として家を大事にしていきたいと考えていますが、輪島の人の多くは、このような家を大切にしようという意識が低いように思われます。
佐藤:  身近な存在の価値は、案外、気づかないものですからね。
大崎:  外に出てその価値を再認識することが重要です。輪島には、黒瓦とかアテの板壁など、地域色豊かな家が多くあります。しかし、今はハウスメーカーが市街地中心部にまで営業するようになっています。これも地震の大きな影響の一つです。
鈴木:  2007年3月の能登半島地震で被災されたと聞きましたが、どのような被害があったのでしょうか。
大崎:  地震によって玄関の壁が大きく踏み外していました。また土蔵の土壁も大きく崩落しました。しかし地元の建築家の萩野紀一郎さんをはじめ、多くの方の助けを得て、塗師屋として活動を再開することができました。
萩野:  大崎さんのお宅は、輪島市市街地にある塗師屋の典型な町家ですが、上塗り作業に使われる塗師蔵の土壁が大きく剥落しました。幸い木構造や屋根には致命的な被害がなかったので、伝統的な手法で土蔵を修復しています。地震直後の2007年4月から修復に取りかかり、左官職人の久住章さんの監修のもと、随所に耐震性・耐久性を向上する新たな工夫も盛り込んでいます。
佐藤:  具体的にはどのような修復を行ったのでしょうか。
萩野:  まずは残った土壁を全て落とし、土蔵の中にベニヤ板と和紙を用いた仮設の上塗場を作りました。当初は落とした土の再利用を考えていましたが、土が脆く砂も多かったのでそれは断念しました。8月半ばから墨出し・小舞掻きを行いました。丸めた土をぶつけるように埋め込む作業を「手打ち」と呼びますが、8月末と10月初めの2回に分けて行い、その後冬季に乾燥させました。
2008年3月末に作業を再開し、内側の土を手で塗りつける「裏返し」を行い、6月末には外壁の凸凹を大まかに直す「大直し」、8月後半には「縦樽巻」を行いました。この時には全国から左官職人が40人以上も参加し、輪島の大祭とも重なって、大いに盛り上がりましたね。修復の第一段階の最後になる「横樽巻」を終えたのが10月です。



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