講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


2.塗師屋の暮らし
大崎:  塗師屋の家は「住前職後」といい、手前が住まい、奥が仕事場となっています。塗り作業を環境の整った奥の土蔵で行うために、このような平面構成になっています。土蔵は道具蔵・塗師蔵・奥蔵の3つがあります。上塗の作業をするのは最も大きな塗師蔵で、3間5間の広さがあります。建物は大正末期から3期に分けて建てられました。住まい部分の柱・腰板・階段は、建設当時に朱合漆で気の遠くなるような回数の塗返しがされています。これらの仕上げに特別なメンテナンスはしていませんが、現在でも当時と変わらない艶を保っています。
鈴木:  土蔵の安定した室内環境が漆塗り作業に適しているとは思いもよりませんでした。
大崎:  漆は一度に重ねて塗れないので、間隔を空けて何度も工程をこなします。この上塗の際に、温度と湿度が安定し、塵や埃の少ない環境が必要になるわけです。輪島の土蔵の多くは、表に面しているのではなく家の奥の方にあって、住宅に囲まれたり、鞘(サヤ)と呼ばれる下屋に囲まれています。
鈴木:  奥で作業をしているのはお弟子さんですか。
大崎:  職人です。通いでやってきています。弟子が多かった頃には住み込みで30人ほどいました。私も4人の弟子を育てましたが、その頃には通いになりました。弟子は一人前になると、どこそこの家の年期上げといわれて、その家が責任をもって育てたことになります。ですから塗師屋で弟子をとるときには、技術的にも精神的にもオールラウンドプレイヤーとして育てる覚悟がなければなりません。
鈴木:  お弟子さんはどちらに住んでいたのでしょうか。
大崎:  弟子が住み込んでいたのは庭より奥の部分の二階で、まるで集合住宅のようでした。食事をするのはその一階の部屋で、私も弟子と一緒に食べていました。一緒に食事をする習慣は弟子が通いになってからも変わりませんでしたね。
西田:  奥さんは大変でしょうね。
大崎:  塗師屋の妻は非常に雑用が多いです。家事だけでなく、漆器の包装なども妻の仕事ですから。特に忙しい家では、雑用専門の人を雇うこともあります。



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