講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


5.現実の物件の中にヒントがある−旭化成
松村:  様々な方向に話題が広がってきましたが、旭化成さんのお話を伺った後で全体に戻りたいと思います。
松本:  ウェブの感想から言いますと、実は知人が多数出ていて、その方々のコメントは控えておきます(笑い)。
第5回の西川さんは、一軒一軒の家を考えるんじゃなくて、組み合わせというかネットワークを考えているのが面白かった。ゲストハウスのひつじ不動産(第22回)も印象深いですね。ボランティア的に成り立っているんじゃなくて、けっこうな賃料がとれる商売の世界というのが面白かったです。
ゲストハウスをニッチマーケットと片付けちゃうこともできますが、旭化成が新築住宅市場に占めるシェアは1〜2%ほどです。そう考えると、別に全員に買っていただけるような商品企画は必要ないということになる。それより積水ハウスさんのレジメを見ますと、当社でこういう整理を行っていないことが大きな問題かな(笑い)。
今日は二つの資料を持ってきました。一つは2007年1月に出した「ルフト」です。これは団塊世代のリタイアが話題となる時期に、鈴木先生にアドバイザーに就いていただいて、リビングの中の居方に取り組んだものです。
松村:  おぉ、ついに鈴木理論が商品に…。
松本:  これまではnLDKを前提とした標準的なライフスタイルがあったと思うんです。だけど、団塊世代の子供が独立してそうしたライフスタイルがなくなったとき、LDKがどう変わるのかを研究しようというのが発端で、200棟を超える大がかりな訪問調査をしました。
要点を言いますと、リビングにいる夫婦2人が別々のことをしているときがあります。東京大学の西出先生も指摘されていますが、3mくらい離れている。同じ空間の中でわざと外れたポジションにいるのが面白いということで「つかず離れず大人のリビング」というテレビCMを作りました。
松村:  どうですか、その反応は?
松本:  60歳代の建替えは結構あるんですが、住宅メーカーの売上げ全体の上下に埋没してしまって、評価としてはよく分からない。でも取材はものすごく多くて、私はこれだけでTVに5回出演しましたから、少なくとも宣伝効果という意味では成功だったかな。
もう一つは2007年7月から始めた二世帯住宅への取り組みです。二世帯住宅は1975年から商品化したもので、基本的には入居者調査を基に商品提案をします。ただ、従来のアプローチでは外階段を付けるとか玄関を2つにするとか、箱モノから入っていましたが、今回はライフスタイル攻めにしようという取り組みをしました。端的に言うと、営業マンがお客様に最初に聞くことを決めたんです。家をどう建てるかというプランの話ではなく同居のライススタイル、すなわち夕食を一緒にするのか別々にするのかを聞くことから始めています。
松村:  玄関が2つある自社物件を不思議に思ったことが発端でしたよね、旭化成の二世帯住宅の商品化は…。
松本:  お客様が建てたものを調査すればニーズを引き出せるという考え方は、当社の開発の伝統ですね。これまでは独立した2つの核家族が一つの住宅に住むことを考えてきたわけですが、ちょっと違うタイプが出てきました。融合二世帯と呼んでいますが、洗濯は別々だけれど夕食は一緒というように、別々だった部分が少し融合している。
その近居版が横江さんの提案だと思うんです。育児も建物が一緒かどうかは大きな問題じゃないので、実は二世帯にしなくても徒歩3分なら成り立つ。二世帯の担当者としてはそこはあえて目を伏せていた(笑い)。もっとも介護になると徒歩3分と室内でつながっているのは大きく違うので、ストック的には二世帯住宅をある程度作った方がいいのかなっていう気持ちはあります。
図4:大人のリビング(旭化成)



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