以前から不動産屋の価値観に疑問があった。今住んでいる所も,紹介されて訪問したところ全てが納得できずオフィスで担当者と立ち尽くしている時に,見かねた担当者の上司が脇から「こんな所もありますけどねえ」と出してきた物件である。なぜそれを早く出さない。多様化する現代の住まい手の求めているもの(それほど特別な要求をしているつもりはないのだが)に不動産業者は対応できていないのではないか。
東京R不動産は「レトロな味わい」「倉庫っぽい」「改装OK」といった,万人向けではないが,今やそれを切実に欲する人が一定数いることが予想される物件を勝手に集めたサイトで,面白いことをする人たちがいるなあ,でも確かにこういう不動産屋はあってもいいよなあと思っていたら,いつのまにかリアルワールドの業者として動きだしていたのだった。インタビューではまさにこの2年あまりの間に,物件が流通し始め,ノウハウが生まれ,蓄積され,新しい職能・業態が誕生しつつある様子を伺うことができた。間違いなく何かが回りつつある。
馬場さんに案内されて訪問したCETエリアのリノベーション,コンバージョンツアーにはさらに驚かされた。どの事例も興味深かったが,ネットで参加者を募集し,いわばリナックス方式でセルフリノベーションを進めている河田さんのGOLDFARMには唸らされた。タオル会社の社長さんである鳥山さんの泰岳ビルでお話を伺っていると,これらの動きが単なる酔狂な若者の試みではなく確実に地域を変えつつあることを実感できた。
ビルや倉庫など,ある程度大きなヴォリュームの空間を持つコンバージョン向け物件が地域に集積している場合は,単体の建物,あるいは町家・長屋など民家のコンバージョンとは違った可能性があることにも今更ながら気づかされた。松村さん達が蒔いたコンバージョンの種の一つは日本橋で花開きつつある。
(鈴木毅)
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