講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


4.住むことは戦うこと?

中田 先ほども言いましたが、図面を最初に見たときには驚きました。いい意味で自分の予想を裏切ってくれて、わーこれは楽しそうやって思ったんです。でも、途中でなんとなくブルーになってくる時期があったんです。さて費用もたくさんかけて、この家で本当に何十年もやっていけるかなって。確かにいいものはいいものやけど現実的かなって。現実と理想の狭間でなんとなくブルーになってしまった。でも、完成するとやっぱりうれしいですね。
松村 安藤さんは、住宅に住むというのは戦いみたいなものだと言っています。施主にもそういう心構えを持つようにと言っていますが、どうですか。この家に住んでみて。
中田 この家が4階建てになっているのは敷地のロケーションを活かすためですよね。今皆さんがいらっしゃるこの居間を一番高いところにもってきて、景色を見るような設計になっている。海側は一面がガラス張りです。ここからの眺めは他に代え難いものがありますが、じゃあ便利かというとちょっと違う。大きな窓だとそんだけ掃除も大変ですし。
松村 このガラスは掃除するのは大変ですよね。
中田 そうですね。屋上に上がってホースから散水して、塩とか付くので洗い流すんです。台風の後には、べったりとワカメがへばりついていて、高圧で水を流さないと取れないんですわ。それはえらい大変でした。
松村 大変だからなんとかして欲しいというわけではないんでしょ。もちろん、それが楽しいというわけもでもないんでしょうけれど(笑い)。
中田 建物が汚れるとか、古くなっていくことは当たり前のことですから。それをちょっとでもきれいにするとか、メンテナンスするとかは普通のことでしょ、という感覚でいます。今の家ってほとんどメンテナンスをしなくてもいいでしょ。ココはメンテナンス要りますね。半年でも窓をきれいにしないといけないとか。やっぱりステンレスでも錆びてきますから、ちょっと磨いてみたり。塩が付いたら塩も落とすし。そんなんが格闘というか仕事として増えましたね。
松村 手がかかる。建築屋の好きな話ですね。今はノーメンテナンスとか言ってるけれど、やっぱり手をかけるのが本来の姿かなと思うときがありますから。家と共に時が過ぎていくという感じがね、何と言うか思い出になっていく。
中田 子供の頃に畳を出したじゃないですか、干すために。一人では無理ですから、兄弟みんなで手伝う。畳の下の昔の新聞を新しいのに取り替えたりとか、そんなんは今はないですよね。
木多 安藤さんの設計した建物だからそれもうれしいとか?
松村 自分が選ばれたというのも大きいよね。普通はありえないでしょ。施主が設計者を選ぶものですから。



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