講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


3.まとめ

ワーキング・マザーは町を選ぶ

今回の座談会に同席して特に印象に残ったことは二つです。一つは、子育て支援をいくら工夫してみても、子育て自体が親に与えてくれる喜びや豊かさが正当に伝えられなければ少子化に歯止めはかかりそうにないということ。そして、もう一つは、居住環境との関わりで言うと、ワーキング・マザーは住む町を慎重に選ぶということです。

前者は子供を産み育てようと思うか思わないかに関わる事柄ですが、後者は一旦子供を産み育てようと決心した女性のライフ・スタイルに関わる重要事です。夫婦共に働きながらの子育てを前提にすれば、行政サービスの質、量や、地域コミュニティの活性度等が住む場所を選ぶ根拠になるということです。かつては、親世帯との距離関係が住む場所を選ぶ際の決定要因になったのでしょうが、親世帯と子世帯が近居できないのだとすれば、当然の行動原理だと言えそうです。

以前であれば家族に求められたであろう支援を町に求める時代。いよいよ、自分の住宅がどうなのかではなく自分の町がどうなのかこそが、それぞれのライフスタイルにとって重要性を増しているのだ。そんな思いを更に強くしました。(松村秀一)


理屈抜きの存在を許さない時代

ファミリーサポートセンターといったオフィシャルな制度から,個人の工夫まで,想像していた以上に,従来の近隣とは違った形で地域を利用した子育て支援の仕組みが生まれつつあることを知ることができた。ここでも地域や居住地の再編成が進行中というわけで,建築や都市計画にも大きく関わってくる興味深い動きである。しかしそれ以上に印象に残ったのは,子育てが楽しいと考える人が日本で特に少ないこと。また損得勘定で子育てをみると損にしかならないという認識である。親ばかでない子育ての楽しさや意味はもっと語られていいと思うが,その結果,損得勘定の計算結果が多少変わって子どもを持つ人が増えるというのもどこかおかしな話である。この座談会の前に森巣博さんの「無境界家族」(集英社文庫)を読んだ。なんとも迫力のある個人と家族のあり方なのだが,親が生活を楽しむこと,そして親がただそこに居てくれたことを感謝する場面が出てくる。そもそも子どもも理屈抜きで存在するもののはずであるが,現代は理屈抜きでの存在を許さない時代ということなのだと改めて思い知った。

今ライフスタイルもなんとなく個人の意思で選択できるもののようなニュアンスで語られることが多いが,それでいいのだろうかと,本企画の根本の部分に関わる疑問に思い当たり考え込んでしまった。(鈴木毅)


育児者の外出行動について

独りの私には少し耳が痛い話だったので,昔研究室で行った調査の話「育児中の専業主婦の外出行動」と絡めながら今回の感想を述べたい。調査の内容は,子どもが生まれる前後で利用施設が変化したか,また,似たような施設の使い分けはあるか,などである。今日の話を伺っていると比較のためにワーキングマザーやお父さんにもインタビューしてみたくなった。

さて,結論を先に言ってしまうと,子どものことを思う母親の気持ちが外出行動を決定していくということであった。具体的には,母親自身が楽しめる場所というよりも子どもが楽しめる場所を選ぶとか,子どもが飽きないように行く場所を時々かえるとか,そういう話である。子どもを育てた経験のある親ならそんなの当たり前と思う話であろう。しかし一方で,「子どもといつも一緒なので昔よく行っていた音楽会やフレンチなど大人の場所には行けなくなった。」など外出行動の自由がどんどんなくなっていることを悩んでいたりもする。また,子育てを通して新たに行くようになった場所,新しい活動や仲間がどんどんできて,自分のライフスタイルが大きく拡張していくことに意味を見いだしながらも少し戸惑っている様子のコメントもあった。

話は変わるが,私が現在住んでいる芦屋の飲食店には子連れの客が多い。もちろんファミレスの類のことではない。居酒屋や寿司屋の様な場所でも小さな子どもがいる。その光景は意外にほほえましい。子連れということで行く場所が制限されるのではなく,子連れの親子を見守る温かい地域の目も必要ではないかと感じている今日この頃である(西田徹)。



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