トークセッション

「これからの郊外まちづくりとハウスメーカーの役割」

 東京大学小泉秀樹教授のご講演『人口減少/少子高齢社会におけるイノベーティブな次世代まちづくり』と、大和ハウス工業瓜坂部長のご講演『上郷ネオポリスの最新情報』を踏まえ、成熟研委員と小泉教授、瓜坂部長により、これからの郊外まちづくりとハウスメーカーの役割についてのトークセッションを行いました。またオブザーバー参加いただいいた、国土交通省住宅局安心居住推進課企画専門官坂田昌平氏、及び東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科教授水村容子氏のご意見を伺いました。

成熟研委員:建物敷地面積の多様性が次世代型の郊外まちづくりのポイントというお話でしたが、それまでの郊外まちづくりは広めの敷地でゆったりした街並みが魅力で、その魅力を発信することで入居者を集めてきました。上郷ネオポリスと周辺の住宅団地では地区計画や建築協定の手法で、敷地の分割化を防いできました。敷地面積の多様性と街並みとの兼ね合いについてのお考えをお聞かせください。
東大小泉教授:上郷ネオポリスでは用途の混在を進める為にコンビニを一軒導入するだけでとても時間がかかりました。郊外の“生きがいづくり”には小商いのできるまちづくりが大切で、上郷ネオポリスでは住宅改修で玩具屋さんができましたが、店舗の床面積が一定以上になると第1種低層住居専用地域では認められないということになります。これまでの郊外まちづくりは、開発時の住環境・景観をいかに保全していくかをテーマに論じてこられ、その手法として地区計画や建築協定がとりあげられてきました。しかし、上郷ネオポリスで目指しているものはその次の、新しいライフスタイルが実現するまちづくりであり、もしかすると “郊外住宅地”という言葉はあてはまらないかもしれません。空き家・空き地発生の問題もあり、住環境・景観を継承するだけではなく、新しく創り出していくことが必要だと考えています。広い敷地で軽井沢のような住環境を享受できるという、今までの住環境がプラスに働いている部分と、新しい要素との折り合いづくりやバランスが必要です。それが上郷ネオポリスで進められています。
大和ハウス瓜坂部長:自分の夢を実現するまちづくりを進めたいと考えています。60歳以後の20年から30年のネクストライフを有意義なものにするチャンスが、上郷ネオポリスにはあるというまちづくりを進めたい。上郷ネオポリスにも一部建築協定区域になっているところがありますが、建築協定区域内の土地を相続した方々の中には、建築協定が足かせになってなかなか売却できないので、自分のところは建築協定から外してほしいという相談を横浜市に持ちかけている方もいると伺っています。街並みを保存したいという方もおられますが、一方で相続したけれど持て余している方もおられます。この実態を見直すことで、まちの価値も上がると考えられます。
成熟研委員:野七里テラスの営業時間を教えてください。また野七里テラスには駐車場が無いようですが、駐車場のニーズは無かったのかについて教えてください。
大和ハウス瓜坂部長:営業時間は朝の8時から夜の8時までです。スペースの関係から駐車場をつくることができませんでした。近くの自治会館に駐車場があり、どうしても駐車の必要な方はそちらをご利用くださいとお話していますが、原則は徒歩でいらしてくださいとしています。もともとあまり外出しない男性が歩いて野七里テラスまで来られることによる健康増進という狙いもありました。実際に「あの友達も行くなら私も行こう」と野七里テラスへの外出が増えた男性がおられます。
成熟研委員:実は空き家は所有者が病院や施設に入っているとか、相続した子どもが処分を決心していないといった、宙に浮いた状態のものが多く、売却や活用がなかなか進まない要因になっています。空き家の大量発生について、今のうちに講じて置くべき対策はどのようなものとお考えですか?
大和ハウス瓜坂部長:野七里テラスの道路を挟んで向かい側のところに、“なごみテラス”という我々が常駐する場所を、小さなお店を改修してつくりました。ここで空き家のご相談を少しずつ伺うようになっています。空き家を借り上げるか、買い上げるかして、ストックとしてとっておくことも対策として考えています。我々がまちづくりの主導を、リスクをとって行っていくのであれば、そうした取組も必要ではないかと考えています。上郷ネオポリスには大和ハウス以外のハウスメーカーや工務店により建て替えられた住宅があり、そうした住宅に関するご相談をどのように集めていくかが検討課題の1つで、ハード以外のサービスの提供やライフスタイルの提案が必要と考えています。
東大小泉教授:URやJSが団地の一部を地域の方々が利用できるように開放したり、URが密集市街地整備の事業区域の土地をいくつか買い取って、暫定的に広場や皆が使える施設などにしておいて、事業が動くときに改めて対応したりといった手法があります。今の大和ハウス様のお話は、こういったランドバンク的な機能を民間事業者がモデル的に担って、他の投資を呼び込むきっかけになる取組みではないかなと、面白く伺いました。