トークセッション

「これからの郊外まちづくりとハウスメーカーの役割」


成熟研吉田座長:地域通貨はボランティアの方々にその都度お渡ししているものですか?
大和ハウス瓜坂部長:野七里テラスでは、国交省の「スマートウェルネス住宅等推進モデル事業」として、好きな時に好きな時間だけ働けるシステムを検証しようとしています。事前に次の月の空いている時間を申告していただいてから、シフトを組んでいます。地域通貨は月単位でお渡ししています。地域通貨が手に入るうれしさと、まちの役に立っているという証を得られる喜びがあるようです。ボランティアの数は増えてきており、いいムードになっていると思います。
成熟研吉田座長:大和ハウスOBの方で上郷ネオポリスに住まわれ、まちづくりに参加している方はおられますか?
大和ハウス瓜坂部長:大和ハウスOBで、分譲当初から住んでおられる方は20件ほどおられ、こちらの活動を手伝おうかと申し出いただいた方もおられます。しかし、大和ハウスの営業のための活動と誤解されるおそれがあり、しばらくは距離を置いて見守っていてくださいとお願いしました。野七里テラスというまちづくりの実績ができましたので、これからはお力をお借りすることがあると思います。
成熟研委員:タウンマネジメントのコストについてですが、大和ハウス様が当座は負担されて、将来的には回収するというイメージでしょうか。
大和ハウス瓜坂部長:建物については弊社が投資しましたが、実はローソン様は野七里テラスを直営で運営しているわけではなく、弊社のグループ会社がフランチャイズで、ビジネスとして運営しています。目標とする売り上げが上がらないと撤退ということになります。住民の方々には、場は弊社が提供したけれど、お茶場が存続するのは住民の皆様が野七里テラスで働くかどうか、野七里テラスで買うかどうかにかかっているというお話をしています。住民の方々もそれを承知していて、野七里テラスや移動販売の売り上げを気にされています。
東大小泉教授:野七里テラスの場合は、品種品目は普通のコンビニと同じものをそろえていますが、小さいコンビニであるため、大量におけるだけのスペースがなく、移動販売とセットにした、コミュニティコンビニとでも呼べるような、新しいスタイルが探求されています。これは、郊外のある程度の人口密度のあるところでビジネスがどのように成立するかの社会実験にもなっています。似たような話で、震災被災地における仮設住宅と24時間型介護・ケア拠点が一緒の敷地にあるという「コミュニティケア型仮設住宅」に関わったのですが、それほど多くの方は仮設住宅にはいないし、どのくらいの対象者がいれば事業試算がとれるのかという、ある種の社会実験でした。これが成立すれば復興後も自分の住まいに暮らしながら24時間のケアを受けることができる、新しいモデルになると考えました。新しいトライアルを、だれかがリスクをとって進めて、その成果を評価し、ビジネスとして回る仕組みを考えるということを積み重ねていかないと、新しい郊外づくりはうまくいかないのかなと考えられます。
成熟研委員:リビングラボの取り組みは世界的に広がっていますが、行政や企業がどういう役割を果たしてリビングラボが成立しているのでしょうか。
東大小泉教授:“European Network of Living Lab”(ENoLL) という世界的なネットワーク組織があり、リビングラボはEU各国・アメリカ・南米・日本・韓国・アフリカなどに広がっています。ヘルシンキでは、市がオープンデータを使って公共交通関係のデータを民間事業者に渡し、民間事業者が様々な交通手段の乗り継ぎが円滑できるアプリをつくり、それをユーザーが実際に使って評価し、改善につなげることで事業化の目途が立つということが行われました。実際に目途がある程度たって事業化することが行われました。新しい事業を生み出すところにリビングラボの可能性がありまます。郊外住宅地の家賃の低さや空間の豊かさをうまく活用して、新しいサービス事業を創造する可能性があると考えています。別の郊外住宅地でのリビングラボの例ですが、住民が根付いて暮らしているという強みにフォーカスをあてて、SNSの企業と通信事業者が一緒になって、SNSをベースとするコミュニティネットワークをつくり、そこから色々な住民のニーズを引き出す取組みを始めようとしています。野七里テラスもリビングラボのひとつではないかと考えています。
お茶場がほしいという住民の思いに、大和ハウス様が新しい視点でのステークスホルダーとして参加することで、コンビニ併設でつくり、移動販売を加えてはどうかという発想がでました。大和ハウス様が色々な所で高齢社会のことを考えている企業とインターアクションを積み重ねてきたから生み出すことのできた発想だと思います。新しい、面白い取組みを連鎖的に起こしていくことが、リビングラボ的アプローチと考えています。
大和ハウス瓜坂部長:高齢者は我々以上の見識をもっており、本気になれば非常に大きな力を発揮します。例えばシューズメーカーのウォーキングシューズのデータを取るために、地域の高齢者に毎日5,000歩歩いてくださいとお願いすれば、本気で5,000歩歩いてデータを提供するでしょうし、その成果でシューズが開発されれば、それが高齢者の人に自慢できる生きがいになります。野七里テラスができて、隣のまちの方からうらやましがられるようになっており、さらにまちづくりにがんばろうというモチベーションになっています。会社をリタイアしたあとも、まちづくり委員会などの名刺を出せることがうれしく、新しい心の拠りどころになっており、アンケートの実施やまちづくり新聞の毎月発行を自分たちの力を発揮して進めておられます。バリアフリーも大事ですが、そうした生きがいを日々生きる糧として我々は重要視しています。