[講演] 超高齢社会の住まい

- 住宅相談から見えてくること -

【質疑応答・意見交換】

成熟研委員:これまでの行政の考える地域包括ケアシステムのイメージは、介護・医療・予防・住まい・生活支援が重なり合うものでしたが、最近は植木鉢の形になり、 ”すまいとすまい方“をもとに医療・看護・介護・リハビリ・保健・予防が育っていくものとなっています。 省庁を超えて”すまいとすまい方“について考える必要があるとされるようになり、まさに「新・バリアフリー」の実践をハウスメーカーとしても進めることが必要になっています。住宅相談は具体的にどういう形で行っておられますか?

吉田氏:武蔵野市の高齢者センターで住宅相談に参加しています。高住会で開催するときは、ネットでお知らせしています。有料にしています。無料にするとバリアフリー化の気もないのに話し込んでいく人が多いですね。 3,000円でもいただく形にすると、セカンドオピニオンが欲しいという意図をもって来られます。それほど多額ではないので、私はもっと来ていただきたいと思っています。

成熟研委員:社内での設計指針で迷うことはキッチンに関することです。キッチンの設計は、例えば車椅子対応まで見込むべきでしょうか。高齢になってもお台所のことは自分でやりたいと希望されるお客様がおられます。 車椅子で調理できるキッチンと、車椅子を利用しないで調理できるキッチンの仕様が乖離してしまうことで、迷いが生じます。ハウスメーカーとしてどこまで想定すべきでしょうか。 また、「新・バリアフリー15ヶ条」の13条「手すりを取り付けるための下地は床面より600〜1600mmとする」とありますが、これは下地を面でとれということでしょうか。

吉田氏:キッチンは本当に悩むところです。車椅子対応のためには、シンク下への車椅子の入り方を考えなくてはいけません。さらにシンクを低くすると収納が少なくなります。 ワゴンを使うやり方が考えられますが、ケアリングデザイン展でも提案しようかと考えています。パラリンピックに出場される方と、高齢になって車椅子利用者になられた方では状態が全く異なります。 高齢になると熱い鍋を持ち上げることが難しいので、鍋を横にずれして動かせるようにとか、水栓に手が届くようにという配慮が必要です。 ただ私の知っている範囲では、高齢で車椅子利用者になると、調理はお湯を沸かしたり、電子レンジを使ったりという程度が普通です。手すりの下地については、面で取る方がいいと思います。

成熟研委員:リフォームに携わっていますが、一番難しいことは、玄関の位置が決まっているお宅が多く、いかに玄関からの外出をスムーズにするかということです。 玄関の位置を変えるリフォームでは予算的な問題があり、玄関の位置を変えないで出入りをスムーズにするためにはスロープか段差解消機という二択しかないでしょうか。他にやり方はないでしょうか。 寝室の掃出し窓から外出する形にすると、鍵の問題が発生します。

吉田氏:これは大きな問題です。特に敷地に余裕がない場合に難しくなります。玄関にこだわることはなく、居間からウッドデッキを利用して、そこから段差解消機やスロープを使うやり方もあるでしょう。 あるいは玄関の中で、段差解消機や可動スロープを置くというやり方もあります。昔から苦労しているところです。

成熟研委員:弊社の展示会にご夫婦で来られる方に、自宅に何歳くらいまで住み続けられるでしょうかと質問されることがあります。 大抵の方は自宅に高齢になっても住み続けて、要介護になったら介護保険の20万円の範囲でリフォームと考えておられるようです。私どもとしては、その程度のリフォームで自宅に住み続けることができるかどうかを答えることは大変難しい。 ここまではできるが、こうなったら無理といった説明ができるでしょうか。

吉田氏:80代のご夫婦からの、自宅に住み続けるためにどうリフォームすればいいかという相談はよくあります。図面を見て相談しますが、リフォームの難しさの1つは、まず大量の家財道具などをどうするかということがあります。 そこに対応するサービスが無く、有料老人ホームに入居する人も苦労しているようで、何とかできないかと考えています。例えばアルバムのデジタルデーター化などができないでしょうか。片付けから入らないとリフォームできるかどうかも分からないというケースがありますね。 一番まずいのは、トイレが壊れたからリフォーム業者に依頼すると、キッチンやお風呂のリフォームまで業者からの勧めでやってしまうことです。 もしかするとトイレの位置に問題があるかもしれないということまで、リフォームでは考えるべきです。だから私はぎりぎりになってからリフォームするのではなく、50代の自分で老後を考える時期に、将来まで住むことができるようなリフォームを考えるべきであり、 トイレが壊れたら便器だけを直すのではなくて、位置も見直すことが大事だと考えています。先ほど「逆算の設計方法」についてお話しましたが、最終案を予め考えておけば、どこかが壊れたときに最終案になるべく近づけるようにリフォームできます。 逆算の発想は、最終的にここまでリフォームできますということをクライアントに示すやり方です。そこまで頭に入れているか入れていないかで、同じお金を使っても、効果は大きく違ってきます。

成熟研委員:あまり良くない設計は、そもそも間取りの位置関係が良くないということがあると思われます。これまでのバリアフリー基準は、位置関係というよりも、空間毎の細部に留まっています。 位置関係の方が重要ということを、どのようにクライアントとお話していくべきかと考えています。

吉田氏:その通りです。位置関係・動線は、建物内部だけではなく敷地との関係においてもとても大切です。社員教育でも扱っていただきたいと思います。バリアフリーの専門家が本当に少なくなり、 バリアフリーを分かっていると言われる方々が、実は段差といったうわべのことしか知らないようです。本当に暮らしを考えた、動線や位置関係のプラニングがなされておらず、だから「新・バリアフリー宣言」を作成しました。

園田教授:私も最近オーダーメイドのマンションについて研究していますが、家族構成が変わってきていると同時に空間のプランニングも大きく変わっています。 寝室を雁行にして、夫婦で独立したテリトリーを持ちつつ相手の気配を感じることができるといった面白い変化が見られます。吉田先生の御経験では、プラニングはどのように変わってきているでしょうか。

吉田氏:高齢になると夫婦の寝室を別にしたいと希望されることが多いですね。こまごました小さい部屋をつくると後の融通が全然利かなくなるので、大きい部屋を家具で仕切るといったことも提案しています。 リフォームでの最大の問題はエレベーターをどうつけるかということです。階段昇降機は座位をしっかり固定できる人でなければ利用が難しいし、車椅子利用者が昇降機に乗り換えることも大変です。 しかしエレベーターの設置には確認申請など法規でがんじがらめになってしまっています。超高齢社会に必要なものについて、あまりに規制することはどうかと思いますね。

園田教授:最近は住宅をコンバージョンしてお泊りデイなどに使うことが増えています。あるいは小規模な福祉施設を限りなく住まいに近い雰囲気にしたいと考える方が増えています。 しかしバリアフリー条例などが過剰なしばりになっており、階段幅とか廊下幅とかの規制でそれがうまくいかない例も増えています。訪問介護士などでその問題に気が付いている人が増えていますが、建築関連の方や行政がまだ気が付いていません。 この成熟社会居住研究会と、吉田先生の高住会でタッグを組んで、声をあげていきたいと思います。