[講演] 超高齢社会の住まい

- 住宅相談から見えてくること -

(3)大切な聞きとる力

 住宅相談を長くやってきて思うことは、相手の立場に立つということの大切さです。設計者のなかには、自分がつくりたいものを押し付けて、相手がどういうものを望んでいるか聞きとるスタンスに立たない人も結構いるのではないかと思われます。
 住宅は暮らしの器ですので、その人がどういう暮らし方をしているかによって、住宅のありようは大きく変わってきます。クライアントの暮らしの場面を想像できる人材を社員教育で育成していただきたいと思います。 また、これは大変難しいのですが、どの人がその家で最も力があるといった、家の中の人間関係を読み解かないで、1人のお話しだけ聞いて他の人のことを考えないことも危険です。
 我々の仲間の中には、ハウスメーカーにおけるそうした能力のある人材は、採用試験の段階で選び出すことができるようにしなければ、採用後の教育だけでは難しいのではという意見の者もいます。これは高住会の課題でもあると考えています。

(4)バリアフリーの提案力をもつ

 今住んでいる住宅の間取りを見ただけでリフォームプランを立てるとか、クライアントからの要望をそのままを図面にすることが設計ではありません。 クライアントは特にバリアフリーのことについて、漠然としか理解していないことが一般的で、設計者は具体的にどのようにするのかについての提案力が必要です。 そうでなければ、5〜10年後に、このようにしてよかったと思っていただけるようなプランにはならないのではないかと考えています。
 例えば、クライアントが昔からこの地で商売を営んできた方などのときは、バリアフリーを設計する中でも、近所との日々のふれあいを意識することが大事です。 クライアントのこれまでの長い生活の中にヒントがあり、それを形にしていくことが設計であると考えています。

(5)設計のプロセス –車いす対応住宅-

 まず敷地を見ることがとても大事です。ハウスメーカーのつくられた設計図を見て、どうしてこういう向きになっているのかといぶかしく思い、ハウスメーカーの設計者は見に来られましたか?と聞くと、いや、来ていないと言われます。 住宅をつくるのに敷地を見ていないということは、ありえません。皆さんの会社では必ず敷地を見るようになさっているかもしれませんが、敷地が話しかけることはとてもたくさんあります。まず敷地を読むことで設計条件が整理されてまいります。
 普通の方は平面図を理解することがやっとで、立面図や展開図を見ても、なかなか理解できないところがほとんどです。 模型をつくっても理解できないということで、CGをつくって、人の出入りを動画で見ていただくことで、やっと理解していただけたということがありました。 設計者がクライアントにありとあらゆる方法でプランを説明するテクニックを身につければ、後のクレームも少ないと思います。
 プランのチェックポイントとしては、まず動線がとても大事です。高齢になって最終的には車椅子生活ということを考えないのはいかがなものかと思います。また家具を必ずレイアウトしてみなければ、実際に通れるかどうかはわかりません。 風や光は省エネを進めて行く上でとても大事なことですので、これも敷地を読むときから考えていただきたいと思います。
 私は「逆算の設計方法」といっていますが、最終的にはどういう姿になるかということをまず決めて、そこから逆算して設計します。 二つ重ねると、例えば将来この壁をとって寝室を広げることになるかも知れないから、そこに筋違を入れないようにするといったことが見えてきます。 エレベーターをつけることは簡単ではありませんが、上の階と下の階で納戸の位置を合せるとか、吹き抜けをつくっておくといったことで対応できると思います。福祉用具やリフトの利用も考えておかなければなりません。 予算に関してですが、家の中だけで使い切ってしまうと、外構がおざなりになります。しかし外構は非常に重要ですので、家と一緒に設計としていただきたいなと思います。外構も含めて、車椅子になっても、暮らし続けることができるということが大事です。