[講演] 超高齢社会の住まい

- 住宅相談から見えてくること -

(6)超高齢社会の住まい いつやるか? 「今でしょう!」

 正直、今は遅いくらいだと考えています。1950年にはおみこし(働き手11人で高齢者1人を支える)の状態でしたが、2000年には騎馬戦(働き手2〜3人で高齢者1人を支える)になりました。 2050年には肩車(働き手1人で高齢者1人を支える)になろうとしています。つまり、今の30〜40代の方が70〜80代になるころには、今のような社会的サービスは受けられないと思います。 介護する人がいません。ですから、高齢になっても元気で過ごす期間をなるべく長く、最後に寝込む期間を短くすることが大事ですが、住まいも大きな課題になります 。身体は高齢になるにつれ徐々に変化するもので、はっきりとは気付かれない傾向がありますが、すべての人に平等に確実に起きることであり、目をそらしてはいけないことです。
 また、これは皆さんもよくご存じと思いますが、家庭内事故で亡くなる方は、交通事故で亡くなる方よりも多くなりました。家庭内事故を減らすことは、国家プロジェクトとしてやってもいいと考えています。 交通事故の半減は、道路整備をやり、啓発活動をやり、法律も変えたといった、いろいろな取り組みの成果です。2050年にみんなが元気でいるためには、家の中のリスクを減らすことが本当に大きいと考えています。
 白内障も60代くらいから生じてきますが、身体の中でも目の衰えは早くはっきりしてきます。40代から老眼になるかたもいます。80代の視界は黄ばんで見えるようになるとのことです。家の中の階段などで工夫が必要になります。
 団塊の世代の方を対象にした内閣府調査によると、大半の方が高齢になっても住み慣れた我が家に住み続けたいと考えておられます。また今のサ付き住宅は終の住処としてはあまりに寒々しいものがあります。 18m²程度の居室は住まいとは言えないと思います。
 2020年のパラリンピックが東京で開催されることになりました。オリンピックの選手村として1万7千人を受け入れることになりますが、そのうちの何割かはパラリンピックの選手用につくられます。 パラリンピックのあとは普通の住宅として利用されることになります。これだけの車椅子対応の住宅がつくられることは大きなチャンスであり、ここにも「今でしょう!」の意味があります。

(7)「新・バリアフリー宣言」 住まいの対応力・包容力・支援力

 今までのバリアフリーは手すりとか段差とか、スロープのお話に留まっていましたが、バリアフリーは暮らし全体を守る重要なキーワードです。高住会では「新・バリアフリー宣言」 として応力・包容力・支援力の3つを宣言しています。
 対応力というのは、将来に向かって、身体や暮らしの変化に対応していけることを指しています。包容力は、自分や家族のことだけではなく、もう1人のだれかを想定することを指しています。自分が歳をとるということはお友達も歳をとるということす。 今まで家に訪れてくれていた方が障がいをもったとしても今まで通り訪ねてこられるようにすることが大事です。支援力とは、これから人的支援が得にくくなるので、できるだけ自力で生活するために、住まいが支援できることも考えるということです。 また、介護が楽に行えることも大切です。
 以上の考え方から“新バリアフリー15ヶ条”をまとめました。(第 1 条【アプローチ】、第 2 条【生活空間】、第 3 条【室内の環境】、第 4 条【居間・食堂】、第 5 条【キッチン】、 第 6 条【寝室】、第 7 条【トイレ】、第 8 条【洗面・脱衣室】、第 9 条【浴室】、第10条【玄関】、第11条【階段】、第12条【車いすスペース】、第13条【手すり】、第14条【床】、第15条【設備のコントロール】)
 「長寿社会対応住宅設計指針」はよくできていますが、実は工務店さんなどにほとんど知られていません。 工務店さんから、お客様にバリアフリーのことをよく知ってもらうために、自分のお店に貼っておくものが欲しいという要望があり、「新・バリアフリー宣言」とこの15ヶ条をプリントアウトして使っていただけるように作業を進めています。 来月には15ヶ条を説明する小冊子もできます。
 また、自分の家は大丈夫なのかをチェックするための、対応力・包容力・支援力チェックリストも作成しました。ぜひお役立ていただきたいと思います。

(8)これからの取組み

 次世代を担うバリアフリーの専門家育成が非常に大事です。高住会では「新・バリアフリー未来塾」を改正しており、今回は2期目になりますが、ハウスメーカーの皆さんにもぜひご参加いただきたいと考えています。 片麻痺や車椅子利用など、障がいをお持ちの方々の住まいづくりには特別な知識が必要です。
 バリアフリー診断が的確にできる人が少ないと思います。もし住団連で、バリアフリー診断士の人材育成や資格をつくるということであれば、高住会も協力ができればと思います。
 今年10月25日から30日まで、西武百貨店池袋本店にて、ケアリングデザイン展が開催されます。これはこれまでの福祉用具はデザイン性があまりに乏しく、おしゃれな団塊の世代の方々には使ってもらえないのではないかということから開催するものです。 50m²くらいのマンションのリフォームのモデルを展示することになっています。 今までの経験上、ずっと使われてきた福祉用具にデザイン性を取り入れることはとても難しく、これまで一般商品として使われてきたものにケアの思想を入れていくという考え方で進めてまいります。 住文化をつくってこられたハウスメーカーの皆さんに、美しいバリアフリーを実現していただきたいと思います。
 ケアリングデザインについては、「からだとこころのケアデザイン」というスウェーデンのデザイナーの著書を高住会で販売しています。他にも高住会は、バリアフリー住宅に関わるすべての人たちの必携書である「バリアフリー 住まいをつくる物語」を編集しています。 人材育成のために、ハウスメーカーの皆さんにもぜひ活用していただきたいと思います。