北欧流『ふつう』暮らしから読み解く環境デザイン
「エコロジカルな生活に向けた北欧の取り組み」

 

【質疑応答・意見交換】

成熟研委員:オアスン地域は冬になっても自転車利用が減らないとのことですが、雪が少ない気候なのでしょうか。雪が降った時の都市の対策は何かとられていますか?
伊藤教授:北欧の中では温暖な地域です。また気温が氷点下になったり、雪が降ったりしても、自転車利用が大きく減ることは無いようです。
成熟研委員:大阪市には、マンションの管理組合が、太陽光発電の自主管理の組合をつくって成功している例があります。余剰電力の固定価格買取制度(FIT)が2019年に終わったあとにどうなるかがまだ見えませんが、マンション管理組合と組み合わせるやり方があるのではないかと考えています。
出席者:シニアの自動車免許返納との関連の仕組みは何かありますか? シニアの公共交通利用促進の施策はどのようなものがありますか?
伊藤教授:自動車免許の制度については詳しくないのでわかりませんが、オンデマンドの小型バスを運用している都市があります。
成熟研委員:EU諸国では、運転免許は70歳で切れて、70歳で改めて更新します。
吉田座長:北欧では行政が施策をやってみて、どうもうまくいかないときに、住民と話し合うような仕組みというものがつくられていますか?
水村教授:地方分権の仕組みが日本とは大きく異なっています。北欧では基礎自治体が強い権限を持ち、具体的な施策を担います。住宅行政において、国の役割は立法と国庫からの補助金拠出くらいです。さきほどご紹介した“ヤルバ2030”の中止もストックホルム市が決定したものです。基礎自治体は住民に近い位置にあり、そこで合意形成が図られるようです。
国土交通省まちづくり推進課長補佐橋口氏:私が厚生労働省に出向していた時から、いい言葉だなと考え、よく使わせていただいたものは「福祉は住宅に始まり、住宅に終わる」です。現在は公共空間の使い方や歩いて暮らせるまちづくりに携わっていますが、公園や道路のようなパブリックスペースの使い方について、制度としては緩和を進めていますが、現場からは依然として管理者に規制されている事項を多いという声を伺っています。南池袋公園のようなうまく行っている事例では、現場でニーズをうまく吸い上げて行政がバックアップするやり方が実現しています。パブリックスペースの使い方について、北欧と日本で感覚の違いのようなものはありますか?
伊藤教授:「コモン」は誰かの権利を侵害しないのであれば個人が自由に使っていいという概念がベースにあるはずなのですが、日本の場合、みんなのものは個人が自由に使ってはいけないというメンタリティが根強いのではないかと感じています。
垣野准教授:日本では自己責任がとれない傾向があると感じています。例えば学校に不審者が入って危害を加えると、学校の責任が問われるようになります。教育の中で自己責任を教えるということが無いと、なかなか解決しないのではと感じています。
水村教授:フィンランドの学生は教師をとても尊敬すると同時に、主体的に学ぶ姿勢があると伺っています。日本人は組織に寄り添う傾向が強いように感じますが、パブリックスペースやコモンをうまく利用するには、利用者側の主体性が重要だと思います。幼いころから主体性を担える教育を行うことが大事なのかもしれません。
吉田座長:住宅会社へのご意見やご提案をお願いします。
伊藤教授:北欧ではカーシェアリングと集合住宅がパッケージで売り出されている例も増えています。日本でもタイムズのカーシェアリングの利用など、自動車を所有しないライフスタイルが広がりつつあり、カーシェアリングとセットになった住宅供給があると面白いかなと思います。ルンド市では、駐車場の代わりに駐輪場台数を増やすための条例がつくられましたが、ディベロッパーも都市生活者の合理的なライフスタイル選択につながるものとして条例制定に納得していたとのことです。自治体とディベロッパーの思惑が合致し、目指す方向性を共有すれば実現できることがあると思います。
また、日本とスウェーデンのごみ分別の方法について調査していますが、ごみ分別種類は同じなのですが収集の環境・条件が違います。スウェーデンの場合、いつでもコンテナにごみを出しておけますが、日本の場合は毎週決まった曜日にごみを出さなければならず、それまでは住宅内で保管しなければなりません。日本での調査結果では、資源ごみの収集頻度が少ない場合に資源ごみを置くスペースがないため、可燃ごみの方に出してしまうことがわかりました。廃棄物を置くスペースを考えれば、リサイクルも進むと考えられます。
垣野准教授:住宅を考えるときに子ども・子育てがキーだと思います。日本においても、子育てを夫婦で行うことが当然になっています。子育てをしている人たちの住宅ニーズは、これまでとは異なると思います。
水村教授:日本と北欧にはワークライフバランスの違いがありますが、日本においても自分の地域や集合住宅の運営に当事者として積極的に関わることが大事になっています。住んでいる方々が結び付き、自分たちの住まいとまちを持続可能なものとする流れが必要となっています。ハウスメーカーから、住まい手の住まい・まちづくり活動を支援するサービスを提供し、活動に主体的に関わることが合理的になるような仕組みを提案することが求められているのではないでしょうか。


以上