北欧流『ふつう』暮らしから読み解く環境デザイン
「エコロジカルな生活に向けた北欧の取り組み」
(3) デンマークのエコビレッジ
コペンハーゲンにあるクリスチャニアは、自治コミュニティとして、コペンハーゲンの観光地の一つになっていますが、もともとは1971年に兵舎跡を市民活動団体が占拠してつくられたものです。ヒッピー世代の、既成社会への対抗運動の意味合いが強い地域ですが、草の根コミュニティの象徴で、エコロジカルな試みも多く見られます。
世界初のコミュニティハウジングと言われるセッテダーメン (Sættedamen) はコペンハーゲン北の郊外にあります。近代化した社会が物質的豊かさをもたらした反面、核家族・共働き・シングルペアレントの増加による人のつながりの希薄化に対して、新しいコミュニティをつくるという目的で始まったものです。ここでは一緒に食事をするというように、生活の一部を共同化しています。このような、自治的コミュニティづくりの伝統が強いのがデンマークの特徴です。
エコビレッジは、生活スタイルから問い直して、より持続可能な暮らし方を目指す人びとが集まって作るコミュニティです。現在デンマークには50箇所以上のエコビレッジがありますが、エコビレッジ・デュッセキレ (Økosamfunds Dyssekilde) はその中で最初のものです。1982年に構想ができ、1987年に土地取得、1990年代に入居開始となりました。7ha住宅地と7ha農地で構成されます。建物はセルフビルドでパッシブソーラーの仕組みで作られているものがほとんどです。当初の住宅は形態からして奇抜で実験的なものが多かったのですが、やがて普通の外観の住宅が増えてきました。建てられた年代による住宅の特色はありますが、構法・材料の面でもエコロジカルなつくりがそれぞれ工夫されています。風力発電と排水の自然浄化の仕組みが作られ、学校やショップもあります。
住民には、公務員、学校の先生、自宅でIT関係の仕事をしている人や、普通に通勤しているオフィスワーカーもおり、決して隠遁している方々ではありません。コペンハーゲンに住んでいて、少し土に近い生活をしたかったけれど、伝統的な農村でどう生活できるかが分からないのでエコビレッジに住み始めたという方もいます。
このエコビレッジが継続・発展した理由の1つは、ライフスタイルの幅を許容する柔軟性だと思います。ここでは最初はコモンミールを行っていましたが、自然解散したようです。エコに対する姿勢もあまりうるさくなく、それぞれの家庭に任されていることが長続きにつながっています。また、学校や風力発電の組合などは近隣住民も参加しており、閉じたコミュニティではなく地域とつながっていることも重要です。
最も大事なことは社会的サステナビリティを意識していることだと思います。環境に対する意識の強い人が集まってエコビレッジを始めるわけですが、それが突き進めすぎると排他的になって新しい人が入りにくくなります。そうならないように、このエコビレッジには賃貸住宅もあって、気軽に出入りできるようになっています。エコはゼロか100かではなく、橋渡しとなる柔軟性が大事です。それがエコビレッジの継続できる要因ではないかと考えられます。
また、デンマークでは再生可能エネルギーの組合づくりのハードルが低くなっています。このような小規模な取り組みを行いやすい仕組みがあることや、もともと集まって住むコレクティブハウジングの歴史があること、草の根運動、住民自治の文化が、エコビレッジを支える背景と考えられます。
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