北欧流『ふつう』暮らしから読み解く環境デザイン
「エコロジカルな生活に向けた北欧の取り組み」
(2) オアスン地域のモビリティ・マネジメント
Mobility Management (MM)は、国土交通省も重視しているコンセプトですが、ヨーロッパで始まった、交通施策のアプローチです。脱自家用車を目指して、需要側が公共共通や自転車利用を選択する条件を整える考え方です。
従来型の交通政策・計画は、自動車交通需要に応えるためにインフラを充実し、その結果交通量が増加して、さらなるインフラ整備が必要となるというものです。この悪循環を断って、公共交通と自転車利用が便利な仕組みをつくり、環境負荷とインフラ整備の財政負担を軽減する施策がMMです。単に自家用車の利用を減らしましょうというキャンペーンでは移動手段選択を変えるのは難しいので、そうしやすい環境を整えることが必要になります。各都市がMMを始めた動機には、渋滞、大気汚染、自動車による都市空間の魅力低下への対処など、様々なものがあります。
MMはハード・ソフト施策の両面から、公共交通・インフラ整備と併せて総合的にモビリティをデザインします。ハード面では公共交通インフラ・サービスの充実、自転車道の整備、駐輪場の充実などがあります。さらに電車・バスなどの公共交通と自転車の乗り換えをスムーズにする、バス停の駐輪場設置、自転車を載せることのできる通勤電車、駅における駐輪場やシャワー・休憩所などのアメニティ施設設置などが行われています。ソフト面ではキャンペーン・広報の他、レンタサイクルやカーシェアリング、イベント参加時の公共交通利用の割引なども行われています。
日本でのエコロジカルな生活スタイルの推進は、例えばごみ分別に見るように、住民の協力や努力に依存する傾向があり、「エコ=不便」という図式になりやすい面があります。北欧では、呼びかけだけでは行動は変わらないと割り切ったところがあり、住民にとってエコが合理的・便利となるような環境を整備して、エコが特別なことでなく生活の一部になることが目指されているように思います。
また、北欧では公共セクターの役割が大きく、サービスを提供すべき対象としての住民の位置づけが明確ですが、日本では、行政と個人の間のスキマを民間・住民が補完する仕組みになっています。例えば北欧では、公的な無料駐輪場の充実が進められていますが、日本ではそこまでは自転車需要を公的にサポートしておらず、空き地を活用して民間の駐輪場が増えたり、逆に行政が駅前に駐輪させないように努力しているようなところがあります。
また、北欧の行政も日本と同様の縦割りだと言われますが、プロジェクトによっては部局を横断的にコーディネートする体制が作られるケースがあります。例えばマルメ市では、MMに関してはMM課が統括・調整する体制になっており、道路課や都市計画課が自動車減少についてのイニシアティブを取ることができなくても、MM課が施策を決定します。日本と北欧では組織構造はあまり変わりませんが、動き方の違いがあります。
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