講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


7.リノベーション・デザインの勘所
鈴木:  近畿大学の同僚の宮部先生によると、リノベーションはきれいにし過ぎないことがこつみたいですね。
宮崎:  きれいにし過ぎるとよそよそしくなってしまう。こうした感覚は上海の経験が基になっているかもしれません。それに未完成の方が、関わりしろが残るような気がするんですよ。来た人が自分で何かできるんじゃないかって思う余地がある。もっともHAGISOの場合、お金がないので一部分だけきれいにして、残りは放っておいたという現実もあったりします。
松村:  最近は様々な取り組みがリノベーションと呼ばれますが、HAGISOなどのリノベーションと組織事務所が行うリノベーションは同じではないですよね。新築のように見えることは全く目指していなくて、むしろ新築に見えたらまずいと考えている。
宮崎:  戦後に建った何でもない建物は、時間の蓄積はあるけれど何をしても構わない。更新性があるとでも言ったらいいんでしょうか。文化的価値のある古民家には恐れ多くてペンキも塗れませが、HAGISOなどでは気負いなく自由に取り組めます。
松村:  見方を変えれば、建物を壊すプロセスが始まっているのかもしれませんね。今の日本社会はいつ壊すか分からない建物で溢れている。そうした建物で色々と面白いことが行われ始めたわけですが、それは建物を少しずつ壊すということを意味しているのかもしれません。
鈴木:  最後に一つ確認させて下さい。HAGISOを「最小複合文化施設」と呼んでいます。しかし、最近の建築計画分野では、従来の研究に対する反省から脱施設化を目指す取り組みが目立ちます。あえて施設と呼んでいるのは何故でしょうか。
宮崎:  木造アパートのリノベーションプロジェクトをやりますと言っても、そんなに関心が集まらないじゃないですか。でも、最小文化施設をやりますと言えば、話を別の次元に持っていける。クラウドファンディングに取り組む必要もあったので、ある種の話題作りとしてそうした呼び方をしました。それから、日本には文化複合施設がたくさんありますよね。お金をかけるプロジェクトなので、建築家のゴールの一つになっていますが、実際には全然使われていない建物も少なくない。非常に矛盾があると感じていて、そうした価値観を揺さぶってみたいという気持ちも入っています。



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