講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


2. 障害者の就労支援施設づくり
奥村:  障害児施設からスタートした佛子園ですが、事業内容の転換点になった施設がいくつかあります。その一つが、1998年に能登町に開設した「日本海倶楽部」です。成人の障害者には就労の場が必要ですが、日本海倶楽部は私どもが手掛けた最初の就労支援施設になります。
能登は過疎地です。そもそも健常者の仕事でさえ不足している状態ですから、自ら仕事を作り出す必要がありました。そこで選んだのが地ビールづくりです。当時は橋本内閣の規制緩和が進められていたので、その流れに乗って地ビール工場をつくりました。同時に奥能登の出稼ぎの受け皿にならないかと考え、レストランも併設することにしました。現在では優れた地ビール工場と評価されるようになり、2014年にはブルワリーオブザイヤーを受賞しました。
日本海倶楽部で作っているのは瓶ビールです。瓶を容器にするとビールを注入したり、王冠を打栓したり、ラベルを貼ったりと障害者が関われる仕事がたくさんあります。容器を缶にすると北陸新幹線などでの販売可能性も出てきます。しかし、それでは自動化が進みすぎて手作業がなくってしまう。福祉施設には様々な税制優遇がありますが、酒税に関してはありません。その結果、酒税という限定された形ではありますが、一般事業者と同等の税金を納めています。ここまで考えて地ビール工場を作ったわけではありませんが、障害者の就労の場がきちんと納税できるような事業になったことは、意義深かったのではないかと考えています。
2012年にはJR美川駅構内に「美川37Café(みんなカフェ)」をオープンしました。佛子園は社会福祉法人として初めて駅の指定管理者となり、駅の清掃・警備・管理などを障害者の仕事にしています。美川駅は1日の乗降客数が800人ほどの小さな駅ですが、JRの駅は町の一番いい場所にあります。地域のコミュニティ・センターにしようと考えて美川37Caféを作りましたが、さらに色々なデイサービスも提供していて、現在は毎日1,600人を越える方々が訪れるようになりました。美川駅を皮切りに、石川県ではJRの4つの駅が障害者の働く施設に切り替わりました。もしも日本中のJRの駅が障害者の働く施設になれば、障害者雇用の問題は解決します。この動きが日本中に広がっていくよう、石川県から発信していきたいと考えています。



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