講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


9.移住、定住、永住
嵩 :  自治体が移住支援を始めようとしても、地域には受入態勢がない方が普通なので順序立てが必要です。そうした地域には学生をインターンシップとして送り込んで慣れてもらうのが効果的ですね。「学生」という立場がはっきりしていると地域側も安心しますし、学生を受け入れたら同行する大学の先生が何かやってくれるかもしれないと、虫のいい期待をしたりします。
西田:  それは大学の先生の正しい使い方ですよ(笑い)。
嵩 :  地域が慣れたら「地域おこし協力隊」などの制度も入れて、移住者を迎える機運を高めていきます。こうした期間に地域の資源を発掘したり、空き家を掘り起こしたりします。この期間には、自治体として来て欲しい移住者像を明らかにしていくことも大切です。自治体の担当者には祭に例えて「お客さんが欲しいのか、準備を手伝ってくれる人が欲しいのか、それとも新しい祭りをつくってくれる人が欲しいのか」と問いかけたりしています。

移住者を上手く受け入れるこつは、やはりルール作りです。移住者が地域のことを知らないのは当たり前ですからね。例えば和歌山県の紀美野町では、覚書をつくって空き家を貸し出す方と借りる方の双方に渡していますが、「地域の決まりごとについては○○さんが面倒を見ます」というように世話人の名前まで書いています。
松村:  そのまま外国からの移民にも適用できそうですね。
嵩 :  行政だけでは移住支援の全てをカバーできないので、民間を上手く巻き込むことが必要です。移住の相談者は土日祝日に来たりしますから、役場は対応できないですよね。もちろん和歌山県のワンストップパーソンのように、移住後にサポートする人も自治体側に必要です。例えば、都会暮らしの人には水利権の話をしてもすぐには伝わらないんです。
松村:  循環するのが重要だとしても、あまりにも出入りが激しいのは好ましくないですよね。
嵩 :  きちんと定義できていませんが、移住・定住・永住という段階があると思います。確かに移住から定住につなげていくのは難しいんです。例えば高知県では移住の相談が非常に増えていますが、5人に一人は定住せずに出て行っていると言われています。

移住希望者に対しては、「自治体の公共サービスを頼り過ぎてもだめですよ。ある程度は自分たちでやらないといけないんですよ」と話をしています。マンションに住んでいたら管理費や共益費を払います。だったら、集落で行う草刈りや水路掃除に出られなければ、管理費として出不足金を払ったりするのは当たり前ですよね。このように話をすれば皆さん納得してくださいます。
鈴木:  移住者が増えている地域に共通点はあったりするのでしょうか。
嵩 :  行政の移住施策だけでなく、民間レベルでの取り組みがあること、特に「この人と一緒になにかをしたい」と思わせる魅力的な人の周りに移住者が集まる傾向はあります。また移住の理由を聞くと「わくわくしたから」という回答が返ってくることも多い。強引にまとめると、まちに魅力があるということなのかもしれません。ただ魅力のつくられ方は様々で、地元を巻き込んだまちづくりを自治体が仕掛けていった結果の場合もあれば、移住の先駆者が引っ張っていった場合もあるんだと思います。



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