講演+インタビューシリーズ『ライフスタイルを見る視点』


8.一方通行から循環へ
西田:  30年後の日本の人口が8,000万人くらいになることを考えると、地方への移住は人口分散という意味合いがあると思います。すると、移住した人たちがすぐ都会に戻ってきたら社会的な意味がないような気がします。
嵩 :  終の棲家として家を買ったとしても、そこで亡くなっている人はあまりいないんですよね。高齢になると病気で入院したりするので、最期は子供のそばで迎えたいと言って都会に戻ることもけっこうあります。また、若い人が移住しても親の介護をすることになって、東京に戻ることもあります。個人的には、それはそれでいいと思っています。移住期間にその地域と良い関係づくりができていれば、仮にそこから出て行ったとしてもその地域の理解者が増えたことになる。移住した人が出て行ってしまっても、必ずしもマイナスではないと思います。
西田:  一定期間定住してくれたらいいというわけですか。
嵩 :  それでもいいと思っています。実は、私も熊本県の小国町で田舎暮らしを9年間していました。大学院生の頃に、地域資源を掘り起こしていかないと本当の意味での地域活性化にはならないだろうと考えて地方を飛びまわって調査をしていたんです。阿蘇で働きながら調査をしている際に住民自らが地域の資源を掘り起こして、情報発信をしていく必要があるだろうということがわかり、小国町でその実践をさせてもらうように話をして、企画書を書いたところ、偶々、事業費がついて専属でやることになったんです。そこから派生して旧国鉄宮原線の活用やその廃線跡にある「竹筋」コンクリートアーチ橋の文化財化など、どんどん広がっていき、結局、この期間に二人の子供が生まれました。小国町で生まれ育った二人にとってはここがふるさとですし、東京出身でふるさとを持たない自分や妻にとっても第二のふるさとになっています。夏休みになったら小国町へ行こうかという話になります。ですから、入ってくる人と出て行く人の両方がいて、循環すればいいんです。
西田:  ということは今までは循環していなかったということでしょうか。
嵩 :  私どもの正式名称は「ふるさと回帰・循環運動推進・支援センター」といいますが、これまでは地方移住を一方通行で捉えていたので関係づくりが広がらなかったんだと思います。



前ページへ  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  次ページへ  


ライフスタイルとすまいTOP